読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者はメジャー・リーグも経験した、元阪神ほかの藪恵壹氏だ。 Q.ピッチングの基本は「外角低め」と聞きます。日本のプロ野球ではこれを徹底しているように感じますが、MLBを見ていると、外のボールには簡単に手が届いている印象です。それは日本でプレーする外国人選手も同じで、むしろ内角を厳しく突くほうがいいのでは? と考えてしまいます。なぜ「外角低め」が原点なのでしょうか。(三重県・39歳)

落合(写真)、清原ら日本人打者で外角低めを長打にできる選手は少ない
A.ホームランもしくは長打を防ぐために外角低めを突いていく。単打ならば仕方がないという考えが根底にあっての「外角低め」 右バッターでいうところの外角低め、ビシッと制球されたこのボールを、日本人のバッターで逆方向にホームラン、もしくは長打にできる選手というのはほとんど存在しませんでした。私の現役時代で言えば、
落合博満(元
ロッテ、
中日ほか)さんや、
清原和博(元
西武、
巨人ほか)さんぐらい。現在のプロ野球界でもこのボールをうまくヒットにできたとしても、コンスタントに長打にできる選手はいないでしょう。そういう意味で、ホームランもしくは長打を防ぐために外角低めを突いていく、単打ならば仕方がないという考えが根底にあっての、ピッチングの基本は「外角低め」と言われてきたのだと思います。
一方で、質問の方が言うように、体のサイズが大きく、手足の長い外国人選手には同じ外角低めでも手が届いてしまうのは確かです。力のある選手も多く、長打にする選手もいるでしょう。とはいえ、外一辺倒であれば「簡単」でも、内角をうまく使うことで、対応も変わってくると思います。変化球も多彩になり、ボールの使い方もさまざまに研究が進む中で、「外角低め」がすべてという考えは少しずつ変化してきていますね。
これを踏まえて、私の考える投球の原点は、右ピッチャーが投げる右バッターの内角球、左バッターの外角球です。右ピッチャーは当然右腕からボールが放たれますので、プレート中央から投げた場合、ピッチャーから見て右側、つまり右バッターの内角、左バッターの外角への距離が右バッターの外角、左バッターの内角に投げるよりも短くなり、ボールの威力も出ます。
逆に右ピッチャーが右バッターの外角低めに投げようとすると、外への投げミスはOKでも、少しでも軌道が内側に入ると、長打にされてしまいます。いま、そのミスを防ぐために右ピッチャーはプレートの一塁側を踏むことでそのミスを減らそうという考えが主流になりつつあります。一塁側を踏んで右バッターの外角低めに投げると、右腕の特性を生かした威力のあるボールを投げられることになりますし、内角に投げても懐に向かっていく角度で放たれるため、対応を難しくすることが可能となります。
<「後編」に続く>
●藪恵壹(やぶ・けいいち)
1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。05年にアスレチックス、08年にジャイアンツでプレー。10年途中に
楽天に入団し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は279試合、84勝、106敗、0S、2H、1035奪三振、防御率3.58。
『週刊ベースボール』2021年8月9日号(7月28日発売)より
写真=BBM