読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は内野守備編。回答者は現役時代、7度、ゴールデン・グラブ賞に輝いた、元中日ほかの井端弘和氏だ。 Q.中学生の硬式野球チームを指導しています。ファーストの守備力を上げたいのですが、そもそもどのような選手に適性があるのでしょうか。井端さんがファーストを守っていた際に気を付けていた点はどのようなことでしょうか。良い練習方法があれば教えてください。(山口県・47歳)
中日時代の井端氏の守備
A.ショートバウンドを含め送球を受ける能力が高いほど良い チーム事情(ほかのポジションや攻撃面)にもよるのですが、ピッチャーが内野ゴロに打ち取って、野手がさばいた打球を、最終的に送球を受けて一塁に触れてアウトにするのがファーストですから、送球を受ける能力が高いほど良いのは確かです。ショートバウンドの処理がうまいと、ほかの内野手は思い切って送球することができ、ベンチで見ている指導者の方も安心できると思います。
私も現役時代、特に
巨人に移籍して以降はファーストを守る機会が増えました。二遊間を長く守ってきましたが、いざファーストの守備に就くと、これが本当に難しい。いろいろな面で難しさはあったのですが、まず感じたのがゴロ捕球です。そもそも使用するグラブがほかのポジションと異なり、ファーストミットに代わります。私は一般的なものよりもひと回り小さいコンパクトなミットを使っていましたが、それでも送球を受けることを第一に考えられた形状ですから、ポケットも深く、ショートを守る感覚で右手を添えて捕りにいくと、スムーズにいかない。そこで、片手で捕る練習を繰り返しました。捕球→送球が常のほかのポジションとは違うので、それで十分に事足ります。まずはしっかりと捕球。その意識を持ちようにしました。
イラスト=横山英史
最も難しかったのが、送球を受けることです。ボールの質、クセは三者三様で、練習から数多くの送球を受けて慣れておかないと試合でミスにつながる怖さがありました。ショートバウンドもそうですね。ファーストの守備力を上げるには、いろいろな選手の送球を、実際にベースについて繰り返し捕球する練習を行う意外に近道はないと思います。「ファーストはただボールを受けているだけ」と考えながら見ている野球ファンの方もいるかと思いますが、そうではありません。守備力の高いチームには必ずと言っていいほど、うまいファーストがいるものですよ。
同様に難しいのが、けん制でベースについているときの守備です。けん制がなければ、モーションに合わせてすぐに向きを変え、ホームに正対するわけですが、左バッターのときなどは、直後に強烈な打球が来ることもあります。走者なしならば定位置からすぐにベースにつかなければいけないですし、やることが多い。俊敏さも求められますから、守備だけで適性を考えるならば、これらを兼ね備えた選手にしたほうが、内野の守備は絶対的に安定すると思います。
●井端弘和(いばた・ひろかず)
1975年5月12日生まれ。神奈川県出身。堀越高から亜大を経て98年ドラフト5位で中日入団。14年に巨人へ移籍し、15年限りで現役引退。内野守備走塁コーチとなり、18年まで指導。侍ジャパンでも同職を務めている。現役生活18年の通算成績は1896試合出場、打率.281、56本塁打、410打点、149盗塁。
『週刊ベースボール』2021年9月20日号(9月8日発売)より
写真=BBM