
実績はあるものの、トミー・ジョン手術明けで、どれくらい投げられるのか分からないシンダーガードを獲得したエンゼルス。大きなかけで世界一を目指していく
今年9月にトミー・ジョン手術を受けた
前田健太の復帰のタイミングについて、ツインズのロコ・バルデリ監督は「人工じん帯の手術によって、これまでよりも復帰が早まる可能性がある」と語り、2022年シーズン中の復帰に期待した。
一方で前田のジョエル・ウルフ代理人は「来シーズンはリハビリにあて、復帰は契約最終年の23年になる」と明言した。前田も「投げられるのがベストですが、無理をして戻ろうとすると失敗する」と説明した。球団と選手は常に一枚岩でいたいが、ケガからの復帰についてはそうはいかないことがある。前田の契約はあと2年で23年の4月には35歳になる。契約期間中になるべくたくさん投げて欲しい球団と、その先の選手生活をにらみ慎重にリハビリを進めたい選手。考え方に差が出るのは仕方がない。
そんな中エンゼルスがノア・シンダーガードと1年2100万ドルで契約した。シンダーガードは20年3月にトミー・ジョン手術を受け、18カ月で復帰、9月28日と10月3日に1イニングずつ投げた。彼は今29歳、来季は何よりもヒジが悪くならないように気を配り、100イニングと少しを目標に投げるのだろう。
公式戦とはいえ、リハビリの延長のようなものだ。にもかかわらずエンゼルスは2100万ドルの大金を投じ、加えてこれまでの在籍球団メッツがクォリファイングオファーを出していたため、次のドラフト2巡指名権と、国際選手との契約金枠50万ドルも差し出さねばならない。
ペリー・ミナシアンGMは「現在のリハビリの状況に好感触を得ている。ギャンブルだけど、良いギャンブルだと思う」と言う。さらに「彼は負けるために来るのではなく、誰よりも勝ちたい気持ちを持っている。そういう選手が欲しかった」と付け加えた。
明らかなのは、同GMがいかに切羽詰まっているかだ。エンゼルスには現在メジャーでも最高のプレーヤーであるマイク・トラウトと
大谷翔平がいる。トラウトには契約があと9年あるが、大谷はFAまであと2年。そのトラウトも30歳で、少しずつ力が落ちていくことを考えれば、今すぐに勝ちたい。
そこで昨季チーム防御率4.69(22位)、WHIP1.38(23位)の投手陣の補強に本腰を入れているのだが、それは簡単ではない。このオフのFA市場にはマックス・シャーザー、ロビー・レイのような好投手がいるが、エンゼルスはトラウト、アンソニー・レンドン、ジャスティン・アップトンの3人だけで来季年俸が1億ドルを超え、残る資金は決してぜい沢ではない。
トレード市場も、アスレチックスが好投手たちを放出する気配だが、交換できる良いマイナーのプロスペクトが少ない。とはいえ、ぼやぼやしているとあっという間に目ぼしい選手がいなくなるので来季どれだけ投げられるか分からないシンダーガードに賭けたのである。
41歳のミナシアンGMは前のドラフトで20人全員投手を指名したり、かなり思い切ったことをする人。この先もギャンブルを続けるのだろう。トラウトと大谷が同じユニフォームでワールド・シリーズに出られるよう祈るだけである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images