不利なカウントから勢いづく江川

　オールスターの奪三振ショー、1971年の第1戦(西宮)での江夏豊(阪神)による9連続と、84年の第3戦(ナゴヤ)における江川卓(巨人)の8連続を、それぞれクローズアップしている7回目。江夏の9連続に迫る84年の江川が3イニング目、先頭に八番の伊東勤(西武)を迎え、1球目がボールとなった場面だ。

　この日の江川は2人目の簑田浩二(阪急。現在のオリックス)を除いて、福本豊(阪急)、ブーマー(阪急)、栗橋茂(近鉄)、落合博満(ロッテ)、石毛宏典(西武)にボールから入り、伊東で6人目、5者連続となる。一方、セ・リーグの2番手だった江川とは異なり、先発のマウンドだった江夏は、先頭打者の有藤通世(ロッテ)に対してはボールから入ったものの、そこからは8者連続で初球からストライクのカウントを稼いでいた。ただ、やや不利なカウントになってから勢いが加速していくのが、この日の江川だったのかもしれない。伊東に対しては2球目もボール。そこから伊東が3球目をファウルとすると、4球目を空振り、5球目のカーブも空振りで三振。これで江川は7連続奪三振とした。

　打順が九番に回ったところでパ・リーグは代打を送る。打席にはクルーズ(日本ハム)が入った。打者から三振を奪うたびに、あるいは次の打者を迎えるたびに、あらためてエンジンをかけていたような江川だったが、伊東から三振を奪ってからはエンジンが切れることはなかった。ちなみに江夏は打者9人に対して全41球を投じているが、1人に対して投じた最多は6人目の東田正義(西鉄。現在の西武)と7人目の阪本敏三(阪急)への6球だったが、3球で仕留めたのは5人目の土井正博(近鉄)、8人目の岡村浩二(阪急)の2人。ただ、土井は初球を、岡村は2球目がファウルだった。

　一方、6球を投じたのは先頭の福本のみながら、3球では1人も仕留めていなかった江川。代打の登場で気持ちが切れかねない展開だったが、その勢いは止まらなかった。クルーズは初球のストレートを空振り。江川は2球目もストレートを投じて、クルーズから空振りを奪う。

＜次回に続く＞

文＝犬企画マンホール　写真＝BBM