低かった開幕前の下馬評

今季からチームを率いる松井監督
西武が4月15日の
日本ハム戦(エスコンF)で10対0と大勝。打線が10安打10得点と爆発すると、エース右腕の
高橋光成が7回1安打無失点の快投と圧倒した。戦力が万全と言えない中で、開幕13試合を終えて貯金1と健闘している。13日の
ロッテ戦(大宮)では、先発の
今井達也が12球団初の完封勝利の快投。長髪をなびかせて剛速球がうなりを上げる。8回一死までノーヒットノーランと完ぺきな投球内容だった。試合後のお立ち台では、「柘植(
柘植世那)さんを信じて、ミットを目がけて投げるだけだと思っていた。柘植さんのリードに助けられたなと思います」と女房役に感謝した。
開幕前の下馬評は決して高くなかった。攻守の大黒柱だった
森友哉が
オリックスに移籍。侍ジャパンの一員としてWBCに出場した
源田壮亮は大会中の負傷で右手小指を骨折したため、患部の治療に専念してファームでリハビリ生活に。不動の四番・
山川穂高は9日の
ソフトバンク戦(鹿児島)で先発メンバーに入ったが、初回の守備に就かず交代。練習中に下半身に強い張りが出たため、10日に登録抹消された。
新戦力が台頭

ドラフト6位の児玉も攻守に躍動している
飛車角抜きの苦しい状況となったが、西武は緊急事態でも新たな選手が台頭して来る伝統がある。源田不在の遊撃はドラフト6位の
児玉亮涼が輝きを放っている。2試合連続猛打賞を放つなど打率3割近いアベレージをマーク。堅守に定評があったが、打撃もパンチ力があり広角に安打を飛ばしている。身長166センチと小柄だが、攻守で俊敏な動きはチームスローガン「走魂」を体現している。
児玉は入団時に「指名された瞬間はうれしい気持ちと、ビックリと半々でした。小さいころから体を大きくしろとは言われていたんですけど、これでも自分のプレースタイルでプロ野球の世界に飛び込んで通用するということをたくさんの人に見てもらうことで、身長だけじゃないぞ、と。自分が持った能力で戦っていける、と子どもたちに夢を与えられる選手になりたいなと思います。四死球で出塁して盗塁を決めても(長打の)記録には残らないですけど、見えない二塁打はたくさんあると思うので、そういうところを突き詰めてやっていきたいと思います」と抱負を語っていたが、まさに有言実行の活躍で最高のスタートを切った。
児玉だけではない。
愛斗が一番に定着し、プロ22年目の
中村剛也が四番に入り自慢の長打力だけでなく、巧打でチームに貢献している。捕手も柘植、
古賀悠斗が好リードで強力投手陣を引っ張っている。
ピンチをチャンスに変える

4月15日の日本ハム戦、7回1安打無失点で2勝目を挙げた高橋。投手陣の充実ぶりは目を見張る
主力が抜けても強いのは、チームの伝統だ。
清原和博が
巨人にFA移籍した97年は
松井稼頭央(現西武監督)、
大友進、
高木大成と俊足の選手たちが躍動。シーズン200盗塁を達成し、3年ぶりに覇権奪回した。
10年ぶりにリーグ優勝を飾った18年オフには、エースの
菊池雄星がポスティングシステムでマリナーズ、主軸の
浅村栄斗が
楽天、正捕手として活躍して
炭谷銀仁朗(現楽天)が巨人にFA移籍。チームの弱体化が懸念されたが、19年も「山賊打線」がリーグトップの756得点を叩き出してリーグ連覇を飾った。
スポーツ紙デスクは「西武はスカウトが好素材を獲得し、コーチが育成する手腕が高いので、主力選手が欠けてもどんどんいい選手が出てくる。児玉は源田が戻ってきても遊撃のポジションを簡単に明け渡したくないし、他の選手も試合に出て勝利に貢献したいという飢えを強く感じる。投手陣はリーグ屈指なので、機動力を生かして得点を重ねる野球が確立されれば頂点を十分に狙えると思います」と期待を込める。
ピンチをチャンスに変えるチームは強い。松井監督が構築するチームは大きな可能性が詰まっている。
写真=BBM