今夏の甲子園、主将として古豪をけん引した一番打者のバットを誰も止めることはできなかった。出塁率.800。金属バットから木製に持ち替えても、相手を圧倒する力は変わらない。 取材・文=服部健太郎 写真=山田次郎 ものすごい二の腕をしている。力の伝え方により、飛距離が出る手応えをつかみ、今夏の香川大会3本塁打、甲子園3本塁打につながった
「一番バッターという役割を任されたことをきっかけに、打撃の意識が変わった。大きなターニングポイントでした」
今夏の甲子園を沸かせた17歳のスラッガーは、リラックスした表情でそう語った。高松商高・長尾健司監督の発案で、打順が二番から一番に繰り上がったのは今年5月だった。
「それまでの自分は常に『ホームランを打ってやる!』という意識で打席に入っていました。その結果、大振りになったり、ボール球に手を出してしまうことも少なくなかった。でも一番を打つようになってからは出塁することだけを意識するようになった。ヒットを狙いにいった結果がホームランになることも多く、自分のスイングをして、バットの芯でとらえられれば、狙わなくてもボールは勝手にフェンスを越えていく感覚が芽生えていた。よく言われる『ヒットの延長がホームラン』というのはこういうことか、と。甲子園での15打席での3本塁打はすべて、安打を狙った結果。高校野球の終わり際に自分はホームランを狙わないことで、良い結果が生まれるタイプだと気づけたことは大きかったです」
変化は打撃フォームにも生じていた。以前は構えた際のグリップが高い位置にあったが、夏前からはグリップを下げ、トップの位置に近い空間にセットして構えるようになった。「ずっと
ヤクルトの
山田哲人選手を意識し、大きく構えていたのですが、どのみち、トップに入れる際にグリップは下がる。それならばあらかじめ下げておいたほうが無駄な動きを省くことにつながると考え、
巨人の
岡本和真選手の構えをヒントにし、変更しました。手を下げて構えたほうが肩の力も抜ける。今のフォームはすごくしっくりきています」
木製バットに対する苦手意識は「まったくありません」と言い切る。「飛距離は金属バットとほとんど変わりません。今の打ち方で使いこなせる感覚があります」。
昨年12月、指導のため高松商高を訪れた
イチロー氏(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)の教えを享受できる幸運に恵まれたことも高校3年夏の進化を後押しした。
「『第2リードをとる際のシャッフル動作は目線を上下させずに打者のインパクトシーンを見る』『ゴロのヒットが外野に飛んできて、本塁や三塁への返球を要する際は捕球ミスを怖がらず、全力で前方へのチャージをかける』といった技術的なアドバイスも貴重でしたが、僕が一番心に残っているのは『常に全力の中で形を作る』というイチローさんの言葉です。最初は意味がよく分からなかったのですが、練習の終盤にイチローさんが全力スイングでのフリーバッティングを見せてくれたんです。『疲れてるけど、ここから全力で手を抜かずにやることが大事なんだ!』と言いながら。常に全力でやり続けることで本物の形ができる。疲れてからが本当の勝負。全力の大切さに気づかされました。それまでの自分はしんどかったらすぐに手を抜いていたのですが、イチローさんと出会ってからは、どんなに疲れていても全力でやり切れるようになりました」
中距離打者の定義
長尾監督は「現チームで主将を任されてから、人間的にも大きく成長した」と証言した。
「今までは自分のことが中心だった男が、主将になってからは常にチームメートに声をかけ、気を配れるようになった。チームの空気が沈んでも、彼の言葉一つで一気にいい雰囲気になる。野球の技術だけでなく、内面においても素晴らしい成長を遂げています」
目指していく、理想の選手像に関し、以前は「トリプルスリーを達成し、ホームラン王のタイトルを獲れるプロ野球選手に」と話していた浅野。しかし高校最後の夏を経て、その思いには変化が生じているという。
「身長が170cmと大きくない自分は、プロの世界では中距離打者だと思うようになり、ホームランに対するこだわりがなくなっていきました」
浅野にとっての中距離打者の定義を尋ねると・・・
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