18年ぶりの歓喜に沸く阪神。貯金も30を超える独走ぶり。しかし、簡単に勝ち続けてきたわけではない。さまざまなターニングポイントがあった。ここでは緊急企画として、どの試合で「アレ」を確信したのか……阪神OBの藪恵壹氏に聞いた。 取材・構成=椎屋博幸 写真=BBM 
前回の登板で不甲斐ない内容だった大竹。久々のマウンドで、自分の持ち味を発揮した
連敗はできない試合
「アレ」を決めたというか、その方向へと、一気に流れが傾いたのがマツダ
広島での8月16日の広島戦でした。その2日前まで、阪神は10連勝を飾っていました。しかし15日の対戦では、6対7で負けています。
この試合、先発の
西純矢が5回を4失点と誤算。さらに6回のマウンドに上がった
馬場皐輔が一死は奪ったものの、本塁打を含む3失点と大乱調でした。これで連勝が10で止まり、内容も逆転負け。このまま重苦しい流れで、連敗でも続くんではないだろうか、という雰囲気もありました。
実際、阪神は8月に入ると毎年、夏の甲子園大会で、本拠地が使えないため、長いロードに出ます。その影響も出るかなと、心配していました。
しかし、それもはね返す力が、このチームにはありましたね。連敗はできない16日の試合は、
大竹耕太郎が先発のマウンドへ。初回に1点を奪われますが、2回は
木浪聖也の同点タイムリー、
近本光司、
中野拓夢の適時打も出て一気に4得点を挙げました。
この攻撃で勝ち越したことにより、大竹の投球に“らしさ”が増していきます。2回にも1失点しますが、そこから6回途中まで緩急をうまくつけ、コーナーを突いていく投球を見せます。この登板の前の7月26日の
巨人戦(甲子園)では5回2/3を5失点と、らしくない内容を見せていました(負けは付かず)。
この試合、私はスポーツ新聞で評論をしました。このときに「大竹の投球はまじめ過ぎる部分がある」という指摘をしていました。実際に、コントロールもよく緩急もつけますが、まじめな性格によって、遊び心が消えるときがあります。遊び心があるときは、緩いボールや投球内でのクイックや、時間差をつけて投げ込んでくるテクニックで、打者を翻ろうします。実際に16日の広島戦では3回以降、緩いボールを有効に、相手をおちょくっているかのような投球を披露。それが功を奏して5回2/3を3失点として広島打線を抑えてきました。
この試合後の大竹が
「新聞にまじめ過ぎると書いてあって、そのとおりだなと思った」というコメントを残していましたが、そういうことに気が付いて改善できるので、頭のいい投手だな、と感じました。 そして、彼の投球は先ほども言いましたが緩急や投球フォームを使い、タイミングをズラしていきます。これが本当に絶妙で、打者は本当にとらえにくいと思います。まるで
「空間の制圧者」とも言うべき投手です。 リリーフした
桐敷拓馬、
岩貞祐太、
岩崎優も盤石の投球内容を見せました。さらに9回には、途中出場した
熊谷敬宥がヒットで出塁し、その後代打として登場した
原口文仁が、しぶとくタイムリーを放ちました。

9回のチャンスに代打で出場の原口。追加点となるタイムリーを放ち、チームの盛り上がりは最高潮に
このように脇役たちもしっかりと仕事をこなし、連敗することなく5対3で勝利。
特に原口が代打で出て打てば、ベンチも盛り上がります。いつもどおりのいい雰囲気が戻っていました。この試合でマジック29が点灯。マジックがついたからこの試合をターニングポイントに挙げたわけではありません。連勝が止まり負けたあとの試合で、先発が内容のある投球を披露し、打線も打つべき人が打ち、最後の仕上げはチームが一番盛り上がる状況ができた。だからこそ「アレ」を確信したのです。
試合後に岡田(
岡田彰布)監督が、記者団の「広島を離しましたね」の問いに「どこと争っとんのや」と言ったらしいですね。この時点で監督は、もはや敵は自分たちにあり、と分かっていた。もちろん、私もそのとおりだと確信しました。

起用した選手がしっかりと結果を出し、思わず笑顔で手を叩く岡田監督と首脳陣
■8月16日(水) 広島 vs 阪神 マツダ広島 試合時間 3時間56分 観客数 3万492人

[勝利]大竹耕太郎 8勝1敗0S、[敗戦]九里亜蓮 6勝5敗0S、[セーブ]岩崎優 3勝1敗25S
PROFILE やぶ・けいいち●1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。1年目に9勝を挙げて新人王に。05年にアスレチックス移籍後は06、08年とメジャーでプレー。10年途中に
楽天に入団し、現役を退いた。11年から阪神コーチを務めた。現役時代のNPB通算成績は279試合登板、84勝106敗0S2H1035奪三振、防御率3.58。