どこまで進化を続けるのか。ヤクルトという枠を超え、野球ファンなら誰もがこの男の驚くべき成長曲線に目を凝らしているのではないか。だが、順調に見えるようで、野球の難しさを感じているのも事実。悩みながらも、2年連続トリプルスリーという誰も歩んだことのない道を、強い足取りで進み続けている。 取材・構成=阿部ちはる、椎屋博幸、写真=福地和男、BBM 僕はまだつかんでいない
──シーズン前に目標のひとつに挙げていたトリプルスリーへ向け、本塁打数が30本を超えました。ここまではイメージどおりに来ているのでしょうか。
山田 結果も出ていますし、ペース的には全然いいと思います。本塁打数に関しては満足していますね。
──本塁打王に向けてはライバルが一人出てきています。
山田 筒香さんですか?よくそのように言われますけど、全然気にしてないですけどね、僕は。
──守るセカンドから見て、今年の筒香選手の打球が変わったと感じますか。
山田 いや、もともとすごいんで、全然変わっていないと思いますよ。
──7月19、20日には目の前で2試合連続2本塁打されました。
山田 すごかったです。でも味方の投手がキャッチャーの構えているところに投げ切れなかったというのもありますし、そういういろんなものが重なって……。まあそれでも全部打ち返しますからね、筒香さん。すごいですよね。
──山田選手から見て、筒香選手の一番すごいと思うところは?
山田 一番は角度を持っていることですかね。自然にホームランの軌道になっているじゃないですか。(ホームランになる角度を)つかんでるっていう感じ。それは天性のものだと思いますけど、もう“ザ・ホームランバッター”っていう感じですよね。
──筒香選手のホームランを見ているとライナー性のものもあれば、角度がついているものもあります。
山田 どんな球にも対応してホームランにしてしまうところがすごいですよね。守ってても怖いですし、「打ちそうだな」って思います。構え自体もゆったりとしていて、そんなに踏み込んで打っている感じはしないので、変化球にもすごい対応できていますし。守っていて、セ・リーグで一番嫌なバッターですね。
──
杉村繁打撃コーチは、山田選手もホームランの角度を覚えたんじゃないかとおっしゃっていました。
山田 僕はまだ覚えてはいないですね。良いときは「こんな感じか」ってなりますけど、すぐ忘れてしまいますし。つかみかけてるっていうのはありますけど、つかんではないです、実際。
──今年はホームラン後のコメントで「狙ってました」という発言が昨年に比べて増えたように感じます。打順も三番、四番を打つようになり、長打への意識や、ホームランを狙う回数は増えましたか。
山田 そこはしっかり状況とかを見ての判断にはなりますけど、「ここは長打を狙っていいな」っていうときはいくので。増えたか増えてないかは分からないですけど、ホームランを思い切って狙うときはありますね。
──そういうときは引っ張って、左中間方向を狙っていく?
山田 左中間方向っていうワケじゃないですけど、フルスイングはしますね。
──山田選手にとってフルスイングというのは、力を入れてバットを振るという感覚ですか?それとも速く振るというイメージ?
山田 うーん。というより、僕の場合は下からすくい上げるって感じです。
──グッとしゃくりあげる。
山田 はい。もうそれで空振りになったら「しゃあないな」って感じで。割り切っていきます。
──全身の力でひねり上げる感じ。
山田 そうですね。
──今年は右方向への意識はどうですか。
山田 全然ないですね。
──2年前は右方向への意識が高かったと思いますが、なぜ意識が変わったのでしょう。
山田 確かに2年前とかのほうが、グラウンドを全部使おう、右方向も打とう、と思っていましたけど、今は全部引っ張りでいっています。
──それはホームランを狙うためなのでしょうか。
山田 いや、それで実際にヒットを打てているからです。打率も残せていますし。余計なことを考えたり、右方向を狙っていたら、そこで崩れるかもしれないじゃないですか。もしそこでまた壁にぶち当たったら、右方向とか考えますけど、今の状態で結果が出ているので、この形でやっていますけどね。
──今季もフルイニング出場を続けています。疲れはいかがですか。
山田 しんどいっす。4月からしんどいっす(笑)。
──体力アップのためにオフにはトレーニング、体力強化に励みましたが、昨年と比べて体力に余裕が持てているなというのは感じていない?
山田 全然……。超しんどいです(苦笑)。野球選手ってすごいなと思います(笑)。
野球選手として求めるもの
自身の成績は昨年を超えようかというほど順調に来ている。だが、表情は晴れない。その理由は自身の成績とチームの勝利が比例していないからだ。チームがかみ合わないジレンマを抱えながら、それでも勝利を求めチームのためのプレーだけを考えている。 
5月31日の日本ハム戦[札幌ドーム]で同一シーズンで11球団から本塁打を放った山田。史上15人目だが、日本人選手では初の快挙だ
──今季もたくさんヒットを打ってたくさんホームランを打っていますが、その倍以上、投手に抑えられているワケです。そのときにはどのように気持ちを切り替えているのでしょうか。
山田 僕の場合は自然に切り替えられているという感じですね。もちろん打てないと悔しいですけど、その悔しさを一瞬で冷静に。冷静にというか「まあ、いっか」という感じでいきますね。開き直ってというか。
──バッティングのシーンがバックスクリーンに写し出されますが、ああいうのはあまり見ない?
山田 見ます、見ます。見ますけど、それは仕方ないな、ああしとけばよかったなと思いつつ、それで終わります。
──やはり切り替えないとやっていけないという感じでしょうか?
山田 毎回毎回、悔しがっていてもしんどいっしょ(笑)。精神的にも。3割打てて評価されるのがバッティングですから、逆に打てないほうが当たり前と言いますか。なのでそこは開き直った感じで。そのほうが自分的にもラクになるので、そういう感じでやっています。
──気持ち的には、打てたらラッキーという感じ。
山田 そうですね。打ちたい打ちたいってなっていても、多分硬くなるので。「打てたらいいな」という感じでやっていますけどね。
──そのような意識だからこそ、あまり緊張せずに打席に入れているのでしょうか。
山田 もちろん緊張はしますけど、自分にプレッシャーをかけ過ぎず、ラクな気持ちでやっています。
──7月26日の
阪神戦で甲子園球場のライトポールに当てたホームランが印象的です。
山田 まあでも浜風が吹いていたので、普通だったらファウルだったと思います。風のおかげですね。「あ、切れるわ」と思ったんですけど、風で戻されながら入っていったって感じです。
──あの場面はファウルにしようと思っていた?
山田 いえ、特にそういう意識ではなく、初球から振っていこうと思っていました。
──昨年は甲子園での本塁打は1本でしたが、今年はすでに3本打っています。何か変化はあったのでしょうか。
山田 う〜ん。特に感じてないですけどね。いつもどおりです。
──春先のインタビューでは「変わったと感じてはいない」とおっしゃっていましたが、背番号1には慣れましたか。
山田 慣れました。慣れたというか、23を見たときに少し違和感がありましたね。
──8月に入り、シーズンも終盤に向かっていきます。ここからどういったプレーをしていきたいと考えていますか。
山田 まずは試合に勝てていないので、自分どうこうよりも、勝ちたいです。試合をしていて、優勝した昨年とは戦い方が全然違う方向に行っていますし……。やっぱり勝ちたいですよね。野球をする以上。
──昨年はこんな感じだったのに、今年はうまくいってないと感じることが多い。
山田 正直なところ、そういう部分もありますよね。ちょっと今年はかみ合ってないという部分もあるし。難しいなって思いましたね、野球は。
──自分の数字よりも、やっぱり勝つことが一番。
山田 そうですね。やっぱり自分が打たなくても、エラーしてもミスしても、試合に勝てばその悔しさというのも忘れることができますし、「よかった。勝ったー」ってなるので、疲れ具合も全然違いますね。やっぱり負けるとその分、疲れもどっときますし。
──ですが、史上初の2年連続トリプルスリーも見えてきています。
山田 トリプルスリーは目標のひとつではあります。ですがやっぱりチームが勝つことが一番。チームの勝利のために打って守って走って、それで最終的にトリプルスリーが達成できたらいいなと思いますね。

8月3日の広島戦[神宮]では同点の7回に2ランを放ち、チームの連敗ストップに貢献した。「勝つと気持ちいい」
PROFILE やまだ・てつと●1992年7月16日生まれ。兵庫県出身。180cm76kg。右投右打。履正社高から11年ドラフト1位でヤクルト入団。1年目のクライマックスシリーズで一軍出場を果たすと翌年から徐々に出場数を増やし、14年には日本人右打者最多のシーズン193安打を放ち最多安打を獲得した。15年にはチームの14年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献。トリプルスリーを達成し、セ・リーグMVP。史上初の本塁打王と盗塁王の同時獲得の偉業。今季は史上初の2年連続トリプルスリー、さらには三冠王と盗塁王の同時獲得への期待がかかっている。