7年ぶりの日本開催となったアスレチックスとマリナーズによるMLB開幕シリーズ。両チームがメジャーのパワーとスピードを見せつけ、菊池雄星があこがれの舞台でデビューを飾り、そして、イチローが最後のダンスを披露した。 写真=小山真司、高原由佳、高塩隆 
開幕戦3回表の第1打席は二飛に。大きなため息が東京ドームに響いた
最後の輝きを求め
2日間、約9万人のファンの前で希代のヒットメーカーの真髄である「安打」を打つことはできなかった。だが、昨年5月から実戦を経験していないながら、日本で待つファンのために「打つ」と、アリゾナ州ピオリアで必死にもがき続けた。
「やはり1本ヒットを打ちたかった。結果を残して最後を迎えたら一番いいなと思っていたんですけどね」
2012年ごろから、それまでと違う感情が芽生えた。「人を喜ばせたい」という気持ち。それに応えるために、毎日の努力を積み重ねた。昨季も「会長付特別補佐」としてチームに帯同しながら、日本開幕戦でのロースター入りを目指した。日本で楽しみにしてくれているファンのために、東京ドームの打席に立つ。そしてヒットを打つ、という目標が、折れそうな心を支えた。
迎えた今季のスプリングトレーニングは、マイナー招待選手というポジションでメジャー再契約へのトビラに手を掛けることを許された。毎日が小さな努力の繰り返し。現在45歳ながら肩、走塁は申し分なく、チームトップクラス。だがファンが一番見たいのは東京ドームでヒットを打つ姿だ。

3月20日開幕戦の16時30分にグラウンドに現れると大きな拍手で迎えられた

イチローの打撃練習になると多くの報道関係者がゲージの周りに集まった
しかし約10カ月のブランクの溝はなかなか埋まらない。
スコット・サービス監督もチャンスを与えるが、安打が出ない。来日前までに打率.080、2安打という不本意な成績。日本での開幕シリーズということもありロースター枠が特別に3人増え28人となったことで、メジャー契約をして試合に出ることが決まった。来日会見では「経験上、オープン戦で打てなくてもシーズンで急に打つこともある。いままでの経験を見せたい」と語ったイチロー。まさに自分自身に言い聞かせているかのようだった。

開幕戦のセレモニーで菊池と笑顔でグータッチ!

試合開始直前には感謝のサイン会。多くのファンが押し寄せた
迎えた3月20日の開幕戦。「九番・右翼」で先発スタメン。第1打席は3回表。渾身のスイングも、力なく二塁へのフライ。次の打席は四球で出塁も、この回で交代となった。第2戦も「九番・右翼」で先発も4打席安打なし。だが、大きな期待を背に受けての6打席だった。

開幕戦第2打席は四球で二塁まで進塁も盗塁をする機会には恵まれなかった

ライトでの守備はまったくブランクを見せることなくこのシリーズでも華麗であり続けた
「あのイチローなら絶対に打ってくれる」と信じたファン。今まではそれが当たり前で、イチローもそれに応えるだけの努力を積み重ねてきた。さらに「これが終わりではない」と信じてきたファンの思いは、イチローの背中に重くのしかかっていた。
「誰かの思いを背負うということはそれなりに重いことなので。すごく疲れました」

第2戦の8回にライトの守備位置から交代で帰ってくるイチロー。東京ドーム全体がスタンディングオベーションに

ベンチの前でチームメートとハグ。現在の正右翼手でチームの顔であるハニガーとも熱くハグをした
7年前の来日はスター選手としてチームをけん引。「日本のファンと瞬間を共有したい」と期待に応えたが、今回はそれができなかった。しかし、ファンの期待に応えたいともがく姿を約9万人のファンもしっかり受け止めた。ラストダンスは、うまく踊れなかったが、それ以上にファンの心とイチローの心が一つになった日本での開幕戦になった。

第2戦、第4打席。これが現役最後の打席に。詰まった当たりの遊ゴロに終わった

開幕戦後東京ドームを後にするイチロー。このときには明日が最後と決めていた