
古巣・西武との対戦が期待された松坂(右)だったが……
5月20日。観衆3万6180人と発表された満員のナゴヤドームの空気が最高潮に達した。相手は
阪神。マウンドには
松坂大輔。5点リードの6回に一死から連打で1点を失っていた。打席に迎えたのは福留だ。1ボール、2ストライクと追い込んでからの勝負球は、内角のツーシームだ。
メジャー仕込みの「フロントドア」がホームベースをかすめると、福留は腰をわずかに引いて見送るしかなかった。見逃し三振で窮地をしのいだ松坂は「(決め球は)頭の中で決めていた。思ったとおりに投げることができた」と絶品の1球を振り返った。
この回を投げきった右腕は今季2勝目をマーク。右ふくらはぎの違和感を訴えて3回途中で降板した13日の
巨人戦(東京ドーム)から、移籍後初となる中6日でのマウンドで、今季最高の盛り上がりを演出した。
投げるだけではない。横浜高では四番を張った打撃でも、本拠地の竜党をわかせた。4回に阪神の若手、才木の直球をとらえて左前にはじき返す移籍後初安打を放った。5回にも三遊間を破り、プロ初のマルチ安打をマークした。
当然のお立ち台。ここでは千両役者のトークも冴えた。「監督からは打撃を期待されて取ってもらったので、ようやくヒットが出て良かったです」。投げて、打って、しゃべって。これなら入場料も高くない。文句なしの松坂劇場に、観客の喝采が途切れることはなかった。
写真=BBM