しなやか、かつ、ときには予想を超えた動きでグラウンドを駆け回った。セ・リーグ史上最年少となる若さで二塁手のゴールデングラブを獲得した広島・菊池涼介。天性の身体能力に加え、試合を重ねながら試行錯誤したポジショニングで何度もチームの危機を救った。さらに、球団新記録となる50犠打をマークするなど、攻守に存在感を発揮した若鯉だが、まだまだ向上心は尽きていない。 取材・構成=新ヶ江周二郎 写真=毛受亮介、BBM 試合数で守備力向上
――プロ2年目の2013年シーズン、二塁手ではセ・リーグ史上最年少となる23歳7カ月の若さでゴールデングラブ賞を獲得しました。
菊池 1年間シーズンを戦って、ボチボチ疲れはありますけど、ケガとかはないので良かったです。「開幕一軍」という未知の世界に足を踏み入れて、最初はめちゃめちゃしんどかったんですけど、徐々に慣れてきました。オールスター明けぐらいからですかね、自分に何か余裕を持とうと思うようになって。試合に出続けることで、気持ちに余裕が出来てきたことが大きかった。後半の方がプレーは落ち着いていたし、エラーも少なくなりましたからね。
――ゲームを重ねるごとに守備が良くなった理由を教えてください。
菊池 試合をするごとに学んだからだと思います。感覚もそうだし、バッターのタイプや、ピッチャーの配球も分かるようになってきたので。僕は球種を見て、どう動くか判断していました。その中で試合を重ねていくと、分かっていく部分がすごく多かった。落ち着きが増したという言い方かもしれません。自分の中に経験が蓄積されていって、試合をすることが楽しくてしょうがなかったですね。
――球種を見て動くことはいつから?
菊池 開幕から意識はしていたことですけど、シーズン後半の方が良かったですね。最初は「こういうデータはあるけどどうなんだろう」と、半信半疑の部分があったので。それが読みやポジショニングが決まり出すと「よっしゃー!」と。自信が深まっていく感じでした。
――二塁守備のポジショニングは、マツダスタジアム広島の外野芝生に入るほど、深いときもありましたね。
菊池 このバッターなら「ここまで下がったら絶対捕って、アウトにできる」と自分なりに考えてそういうポジショニングをしていました。エラーも多く、見た目的に派手なプレーが多いので、そういう選手だと思われてもしょうがないんですけど、実はかなり考えてやっていましたよ。今後は状況判断をしっかりしたい。今シーズンも、「普通に処理しても間に合うのに、なんで慌てたんだろう?」と思う場面がたくさんありましたから。
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石井琢朗一軍守備・走塁コーチは「キクは普通の選手より守備範囲が広いから、エラーの数が多いだけ。気にしなくていい」とおっしゃっていました。
菊池 琢朗さんはそう言ってくれますけど、シーズンを終えて数字だけ見ると多いよな、と思います。自分自身で歯がゆい部分はたくさんある。補殺数が多いのも、打たせて取ってくれたピッチャー陣のおかげなので、決して自分1人で取ったタイトルではないですよね。
――5月7日の
DeNA戦(マツダ広島)では、二塁手リーグ最多タイとなる1試合3失策も記録してしまいましたが、
前田健太投手から声をかけてもらったそうですね。
菊池 試合中にもマエケンさんが「大丈夫、大丈夫」と言ってくれましたし、シーズンが終わってからは「キクじゃなきゃアウトになっていない場面も多かったし、そっちの方が多いから」と言ってくださっているのを聞いて、とても勇気づけられました。その思いを裏切らないように、もっと練習したいです。

23歳7ヵ月でのゴールデングラブ賞受賞はセ・リーグで史上最年少の快挙だった

5月7日のDeNA戦(マツダ広島)ではリーグタイ記録となる1試合3 失策。「さすがにヘコみましたが、マエケンさんのひと言に助けられました」(菊池)
残り35点を埋めるために
――シーズンを終えて満足感のようなものはありませんか?
菊池 まさか2年目でゴールデングラブを取れるとは思っていなかったし、レギュラーすら厳しいと思っていたので達成感はあります。ただ、いまの自分に満足するところは何もないし、もっとうまくなりたいという気持ちの方が強いですね。来季はエラーを限りなくゼロに近づけて、守備率10割で終えたいです。
――菊池選手は守備で良いプレーをすると、それが攻撃につながっていくタイプですか。
菊池 良いプレーをしたら、自分の中で何かノっている部分はあると思います。そこまで気にはしていませんけど、気分が良くなりますから。
――開幕前は「とにかくチームを元気づけるプレーがしたい」と話していました。シーズンを終えて、採点するとしたら?
菊池 うーん、難しいですね。じゃあ、65点! 期待に応えられた部分もあるし、そうじゃなかった部分もありました。最初は一番バッターだったのが、途中から二番になりましたし。やっぱり、シーズンを通して打って、守って、走ることは大変ですね。あらためて思いました。たまにベンチで琢朗さんが「元気出していこうぜー!」と言っているのを聞くと、「そうだ、忘れてた」となったこともありましたし(苦笑)。だから、65から70点ぐらいですかね。僕だって落ち込むときもありますから。
――残りの35点はどうすれば。
菊池 今年の成績は、自分が初めてシーズンを通して戦った結果。この数字はできて当たり前にして、この先すべての面で今年を上回っていかないといけないと思います。レベルアップは当然のことで、チームの競争で誰がいるかは関係なく、しっかりやっていきたいです。
――秋季キャンプで取り組んでいた左打席での打撃練習は、レベルアップの一環でしょうか。
菊池 いえ、あれはとりあえずやってみただけです。新井(宏昌、打撃コーチ)さんから「やってみようか?」と言われて。過去にも試合で試したことはあるんですけど、プロですからそう簡単ではないですよね。来春のキャンプが始まったときにどうなっているか……。やっている僕が分からないぐらいですから、当然、どうなるか分かりません!(笑)。
――右打席のレベルアップが最優先?
菊池 昨年のシーズン終わりから、現在の「一本足打法」にしましたけど、足の上げ方、タイミングの取り方などは、常に試行錯誤しながらやってきました。トップの位置も日によって違うし、グリップも上げたり下げたり。というのも、僕にはまだ「これだ!」という打撃フォームがないんです。よく「フォームを固める」と言いますが、そもそも固めるべき基礎のフォームがない(笑)。原点に帰るものがないので、シーズン中に修正しながらやっていくしかない。
――それを新井コーチと二人三脚でやってきた。
菊池 はい。だから、毎日練習の一番最初にやるティーバッティングで新井さんに見てもらって、「ここがこうなっているから今日はこうしてみよう」とフォームを変えていきました。調子が良いということは自分では分かるんですが、ベースがないから悪くなってきたときにその原因が分からないんです。これからは基礎を固める作業に入っていくと思いますが、そのときに自分の打撃フォームがどうなっているのか分かりません。
まずはカープで結果を

今秋の侍ジャパン・台湾遠征でも存在感を発揮。第3戦ではヒットで出塁すると、すぐさま二盗(写真)。岡島の右前打で生還し、決勝のホームを踏んだ
――ゴールデングラブ賞獲得に加え、2リーグ制後の二塁手シーズン最多補殺記録(528)を樹立、球団新記録となる50犠打、シーズン2本の満塁本塁打。チームでは16年ぶりのAクラス入りに貢献するなど、さまざまなことがありましたが、最も褒めたいところは?
菊池 褒めるところですか……。やっぱり、みんなの力で3位を勝ち取って、クライマックスシリーズ(CS)という大きな舞台で、いつもどおりのプレーができたことですね。
阪神戦(10月12、13日/甲子園)は、みんないつもとは違う雰囲気だったんですけど、その中にも良い緊張感がありました。チームの先陣を斬ってヒットを打つことができたり、CSをすごく楽しくプレーできたなという思いはあります。それが終わってみての感想です。シーズンでは苦しい時期もありましたけど、CSで結果を出せたことが良かったですね。
――しかし、ファイナルステージでは
巨人に3連敗を喫しました。
菊池 後ろ(リリーフ)のピッチャーがすごいことを肌で感じて、選手個々の能力も高かったですね。そこを僕らの若い力とか、チーム一丸となって何とか勝ちたかったんですけど……。阪神に連勝していけるかなと思いましたが、なかなかうまくいかなかった。それもまた勉強になりました。巨人を倒せるのはカープしかいないと思っていましたけど、勢いだけでは足りなかったですね。
――シーズン終了後に参加した侍ジャパンの台湾遠征では、
小久保裕紀監督が菊池選手の守備範囲を絶賛していました。
菊池 実際にそういう声を聞いたのは、遠征が終わってからなんですけど。初めての経験だし、周りはプロでバリバリやっている人たちでそこの中でやっていることがうれしかったです。反面、海外でプレーをして、そのつらさ、難しさも知りましたね。日本の環境は恵まれていて、代表ともなると、こういう中でもやっていかなきゃいけないんだなと思いました。技術的なことはあまり話していませんが、同世代の選手とも一緒にプレーして、発見もありました。
――コーチは、巨人時代にファンだったという
仁志敏久さんでした。
菊池 小さいころからずっとあこがれていた方ですし、琢朗さんも『仁志に「菊池を頼む!」と言っておいたから』と言ってくださったので心強かったですね。守備面でアドバイスもいただけたので良かったです。捕ってからスローイングまでの流れとか、言葉にするのはなかなか難しいんですけど(笑)。ノックを打っている姿を見ながら、「ああ、こういう打ち方でライトへヒット打ってたな」と思って、懐かしかったです(笑)。
――侍ジャパンには今後も選ばれたい?
菊池 まずはチームで結果を残してからですよね。ジャパンが目標ではなく、カープを引っ張っていけるような成績を残してからです。頑張ります!
PROFILE きくち・りょうすけ●1990年3月11日生まれ。東京都出身。右投右打。171cm69kg。長野・武蔵工大二高から中京学院大を経て、12年ドラフト2位で広島入団。高い身体能力を生かした守備で、昨季中盤に一軍初昇格。7月以降は負傷離脱した東出に代わり、一軍の二塁手に定着した。今季開幕から二塁のレギュラーを務め、自身初のタイトルとなるゴールデングラブ賞を獲得した。今季の成績は141試合出場、打率.247、133安打、11本塁打、16盗塁、57打点。