済美高2年時には春の甲子園で全国制覇を果たし、早大では
斎藤佑樹(現北海道
日本ハム)、
大石達也(現埼玉
西武)らと強力投手陣を形成。プロ1年目から8勝をマークしたドラフト1位ルーキーが、カープの主力投手になる日は遠くないと思われてきた。ところが、ここ2シーズンで2勝にとどまっている。

▲1月にはプロ入り以来初となる早大トリオでの自主トレを敢行(左から西武・大石、日本ハム・斎藤、福井)。勝負の年を前に、気持ちを新たにした(写真=高原由佳)
チームは球団史上初のクライマックスシリーズ(CS)進出を果たしたが、心の底からは喜べなかった。
「チームのために何もできなかったのが悔しかったです。自分がCSに出られなかった悔しさもあります。やはり、自分もチームに貢献してCSで投げられるようにしたい」
持てる才能は一級品。メンタル面と技術面、その課題はきっちり把握している。
「マウンドでふて腐れているように見えたこともあると思います。これが、自分の中で、あきらめにつながっていた。気持ちの中で切れない。いろんなことを受け入れながらやっていきたいです」
彼は自らを「完璧主義者」と表現したことがある。しかし、今は、その見方が変わった。「実際は考え過ぎて自分で崩れるタイプ。あまり考えずに投げていたときが一番良かった。なので、練習で考えて、試合で考えないように持っていきたい。開き直りも必要だし、自分を認めながらやっていきたいですね」
ただ、練習ではとことん自分を追求する。その厳しさは変わらない。
昨シーズンの課題ははっきりしている。技術面では、投球フォームの足の運び方である。「投げるときに、左足が遠回りしていました。今は、上げた足を真っすぐキャッチャー方向に出すようにしています。そうすれば、横方向のムダな動きがなくなる」
力を分散させるのでなく、一方向に集約する。この方向性は
畝龍実投手兼分析コーチも強調する。「シンプルに、真っすぐ踏み出すイメージです。体のブレがコントロールの乱れにつながっていたと思います」
福井のポテンシャルを知るだけに、畝コーチも懸命に、フォームをチェックした。ブルペンでは、マウンドのプレート板からキャッチャーの間にラインを引いた。そこから体がブレず、一直線で踏み出せるようにという意識を高めるためだった。
自身でも懸命にフォームチェックを繰り返した。春季キャンプ、ブルペン入りの際は必ず投球練習を撮影した。スコアラーを務める
田中彰氏も、その取り組みを見てきた。
「投球練習のときは必ず、『撮っておいてくださいね!』と声を掛けられました。夜間練習では、テーマを持ってシャドーピッチングをしていた。これまでと気持ちを切り換えて取り組んでいるので、こちらも応援したくなりますね」。福井の熱い思いは周囲にも確かに伝わっているのだ。
原点に立ち返る一年 プロ2年目の春、済美高時代の恩師・上甲正典監督に言われた言葉がある。
「ストライクを取りにいこうとすると腕が振れなかったりしている。まず、腕を振っていくことからやろう」。豪快さか、安定感かという議論ではない。今、福井はその意味をようやく理解している。
「こじんまりするのは、腕の振りを(体の)後ろで処理するから。もっと打者に向かっていくことが大事。腕を振って向かっていけば、抜けた球でも打ちにくいと聞きました」
畝コーチが打者方向に向かって引いた真っすぐなラインは、体と気持ちを打者方向にぶつけていくための道標なのかもしれない。
何事も、長所と短所に二分できるわけではない。早大時代から福井を知るプロトレーナー・安福一貴氏の説明は明快だった。
「悪く言えば力み、良く言えば力むのが得意なのです。瞬間的に力を入れて、力を集約することが上手い。だから、爆発力があります」
自主トレの中で、安福トレーナーは背番号11の魅力を最大限に引き出そうとした。「バーベルよりダンベルのイメージ。体全体というより、体の一つひとつのパーツを独立して動かしやすくすることを意識しました」
安福氏と時間をともにする中で、福井は多くのことを吸収した。それは、フィジカルのことだけではない。「技術を上回る精神力。自信がつけば技術がついてくる。技術がつけば精神力がついてくる」。体と心の不可分な関係を痛感したのだ。
キャンプ、オープン戦を通して、今季は心も体も相手打者に真っすぐに向かっていっている。それは、先発ローテーション、一軍枠の争いに対してでも、だ。昨季、10勝をマークした
大竹寛がFAで
巨人へ移籍、確固たる先発ローテを確立するため、福井の存在は必要不可欠。「意識できるなら意識してやっていきたい」。彼は、強く言い切った。
広島時代の大竹に受けたアドバイスがある。「ストライクを投げるときはストライクを投げる。ボールのときはボールでいい。ボールを投げるときに際どいコースを狙うと、変にコントロールして自分が崩れる」

▲キャンプでは例年以上に充実感をにじませる表情が見られた
ボールの質は一級品。かつて、ベテランスカウトの
苑田聡彦氏がこう語っていた。「闘争心は早大3人衆では福井が一番」。福井は今、あらためて、その原点に立ち返る。
「そこは意識したいポイント。大学時代は闘争心が前面に出た。しかし、プロに入って怖さを覚え、ここ数年、それができなかったですから」
今季、畝コーチが投手陣全体に訴えていることがある。「考え込むと1人になる。周りの声を聞こう。誰かの一言で、一日が変わるかもしれない」。かつては、周囲を寄せ付けないムードを漂わせることもあったが、今の福井は違う。
日南キャンプ、カープの背番号11の大先輩である
池谷公二郎氏が福井に歩み寄った場面があった。
「キャッチャー方向にシンプルに足を出してシンプルに投げればいい。あんまり考え過ぎなくてもいい」。この言葉が気持ちを楽にしてくれた。「今年は自分にとって大事な年です。体の調子も良いしチームに貢献したいですね」
悩みも覚悟も、右腕の表情の向こう側にある。「今年のモチベーションは高い。相当やる気です。あまりに気合があり過ぎて、ケガだけしないでくれと思っています」(プロトレーナー安福氏)。「今年やらないといけないという気持ちが良い方向に向かっていますね」(畝コーチ)。
周囲からは期待と応援の声しか聞こえてこない。勝負を懸ける背番号11には、追い風しか吹いていない。その風を受け、
福井優也は、真っすぐに2014年の一歩を踏み出す。
PROFILE ふくい・ゆうや●1988年2月8日生まれ。岡山県出身。178��80�圈1ε蟇β如�済美高から早大を経て、11年ドラフト1位で広島入団。ルーキーイヤーは先発として8勝10敗の成績を残した。2年目は制球難に苦しみ、2勝。昨年は中継ぎへ転向も12試合の登板にとどまった。今季は先発へ再転向し、2年ぶりの白星を狙う。プロ通算56試合登板、10勝15敗、0セーブ、防御率4.57。