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野球浪漫2015

巨人・松本哲也「うまくなりたい、と常に思っている」

 


3月27日に開幕したペナントレースでは、今年もまた、心ふるわされる幾多のドラマが生まれることだろう。そんなドラマの演者である選手たちにスポットを当てる“野球浪漫”。2015年はファンに愛される仕事人・松本哲也の物語からお届けしよう。
文=三浦正[スポーツライター]、写真=大泉謙也、小山真司、BBM



青木宣親を強く意識


 全身を目いっぱい使い、攻守走どんなときも懸命に、アグレッシブに、そして、スピード感あるプレーを続ける。松本哲也は「レギュラーを目指して、多く試合に出ることも目標ですし、日本一奪回に向けて、少しでもチームに貢献することが目標です」。今季に懸ける思いは強いが、余計な力みは感じられない。自然体で目標を口にした。

 定位置争いや開幕一軍メンバーを巡る争いが、選手層の厚い巨人では一筋縄ではいかない。それぞれが長所を持つさまざまなタイプが、貪欲に結果を求めている。キャンプから毎日がまさにサバイバルだが、とはいえ周囲に振り回され、一喜一憂してはいられない。

「周りのことばかりを気にしていても仕方ないです。自分のことに集中してやることが、今は重要かなと思っています。今年は自分のやるべきことをやろうと思って続けているのが、良い方向につながっているのかなと」

 プロ入り9年目を迎え、経験は抱負だ。落ち着いて、ここまで仕上げてきた。

 取り組んできたことの1つは打撃面で、強く振ることをテーマとして掲げた。目指すべき姿として挙げたのが、ヤクルトからメジャー・リーグに戦いの場を移し、そこでも活躍している青木宣親(ジャイアンツ)だった。

「向こうでは体は小さいほうですし、その中で活躍されている。力強いバッティングをできたらな、と思っています。もっと力強さを出していけたらなと思います」と進むべき道を示した。オフから徹底的にバットを振り込み、キャンプでも継続した。結果としても表れてきた。オープン戦では右方向にも鋭く、強い打球を放っていった。「キャンプからやってきたことが試合で少しずつできるようになってきた」と変化を感じ取っている。

キャンプ、オープン戦では好調を維持。キャリアのある松本哲也でもシ烈な定位置争いの真っただ中だ



松本哲也=嫌なイメージ


 ただ、そんな中でも自らのスタイルも、もちろん忘れていない。打席ではとにかく粘り強く、簡単には打ち取られない。今季初めて一番に入った3月8日の阪神戦(甲子園)、初回は結果的には三振に終わったが、ファウルを重ねていった。原辰徳監督は「ボールに食らい付いていく部分で、僕にはいい印象を与えた」とその中身を褒めた。

 松本哲は自らの役割を「簡単に終わることが一番いけない。凡打にしても、少しでも相手に嫌なイメージを残し、そういったことによって、その試合の中で(相手投手が)『1打席で疲れたな』とか、そういうイメージも残すことも大事なことじゃないかなと思う」と言う。淡泊な打席を少しでも減らそうとしている。

粘り強い打撃は健在。ハードヒッターが多い打線で小技、足のスパイスをきかせる



 その考えは、プロ入り当初に構築された。山梨学院大付高、専大を経て、入団。新しく踏み出した場所は松本哲にとって、別世界だった。フリー打撃から、みな打球をよく飛ばし、豪快に打っている。「バッティングがすごいなというか、全然(自分に)力はないな、という衝撃はすごくありました。こんなにも違うのか、と思いましたね」と素直に打ち明ける。そう感じたからこそ「どうやったらここで生きていけるか」と考え抜いた。

 粘り強さ、しつこさ、打席で少しでも相手に嫌なイメージを残していく、それこそが必要でそして、プロで生き残る術だと結論を出した。「高校、大学のときは普通に打つことが多かった」と言うようにアマチュア時代は指1本ほど余して長く持っていたバットも短く握り、少しでもプロのボールに合わせられるように打撃フォームも改良していった。「そういうのが自分には求められるというか、求めていかないといけない。ほかの選手にはできないというか、ほかの選手より、そういうのを強く持ちました」と意識を変えた。

 入団当初、置かれた環境は厳しかった。育成枠で入団し、2、3年で結果を残さなければ、すぐにプロの世界から見切りをつけられる。「危機感というよりは、育成という立場で、一番下の立場なので、自分に恐れるものはない」と当時の心境を語ってくれた。失敗を怖がらない。大胆な気持ちでプレーを続け、自らのレベルアップを図っていった。2006年のドラフト会議で、育成3位で指名され、翌07年の2月27日に早くも支配下登録された。今では育成出身から活躍している選手も多いが、巨人では育成から支配下選手に登録されたのは松本哲が初めてだった。「下はないなと思ってやっていたので、上を目指すということだけを考えていた。気持ちの持ち方としては、良かった」と先駆者は言う。

鉄壁を生んだ要素


 粘り強い打撃以上に「自分の一番の持ち味の部分」と語るのが、守備だ。俊足を生かした球界屈指の広い守備範囲は、誰もが知るところだ。「打たれたと思った打球を捕ることによって、ピッチャーの信頼感も得られる」と語る。ダイビングキャッチに、フェンスにぶつかりながらの好捕と、年間に何度もビッグプレーを見せていく。ダイビングの基本は、もちろん「100パーセント捕れると思ったとき」だ。堅実、かつ、思い切ったプレーが、勝利に直結した試合も多い。フェンスに体を投げ出すときには「しっかりとボールを追っている中での反応なので、捕るときには全く考えていない」と恐怖心は消えていると言う。

守備と足はチームに欠くことのできない大きな武器。3連覇も「松本哲の守備で勝った」ゲームを数え上げればキリがない



 例えば、一昨年4月7日の中日戦(東京ドーム)では、8対6と2点リードの九回二死満塁で中前へのライナーへ飛び込み、好捕。抜けていれば、逆転を許す場面での好守で、チームを開幕7連勝へと導いた。「中途半端になるより、思い切っていこうと思った」と振り返った。

 昨年5月20日の西武戦(西武ドーム)では中堅後方への大飛球に対し、一直線に背走していった。フェンスのラバーの部分にヒザをかけながらジャンプし、フェンスにぶつかりながら腕を伸ばしてつかみ取った。少しでもロスがあれば、成り立たないプレーに「フェンスとの距離感は走りながら確認できていた。後は思い切って捕りにいくだけだった」と平然と語る。

 守備において大事にしているのは、スタートだ。少しの遅れが、落下地点に入ったときには大きな差となって生まれてくる。「いかに一歩目のスタートを速く切るかということに関しては、毎球、毎球、意識してやっている」と神経を使っている。さらに、センターに入ることが多いだけに捕手がミットを構えた位置が見える。そこから、打球の出だしを予測する。加えて、打者の打球方向の傾向、そのときの好不調などのデータも細かく頭に入れ、フル活用していく。「打球がどっちに飛んでくる方が確率が高いとか、そういうのも考えながらポジショニングを取って、守っている」と好守の裏に�蓮△気泙兇泙瞥彖任�絡んでいる。

「うまくなりたい、と常に思っている」


 守備への意識は高校時代から高かったと言う。「うまくなりたいというか、もっとやりたい」と意欲的に取り組んでいた。フリー打撃など、普段の練習を特に大事にしていた。

「(打者の)反応とか、そういうのも見ることができる。こういうときはどういう反応をしたらいいのかな、とか考えていた。しっかりと、自分の切りやすいスタートを意識しながら練習していた。何回も、何回もやって、体が覚えていく部分がある」とその一球一球の積み重ね、地道な反復練習が今の鉄壁を生んだ。

 守ることへのこだわりを持ち続けているだけに、満足感はまだない。

「うまくなっているな、という実感はない。うまくなりたい、と常に思っている。守備は捕るだけではないので、スローイングの部分であったり、そういうところはもっとやらないといけない。もっとうまくなりたい」。貪欲な姿勢は高校時代から何も変わっていない。

 ちなみに、今の守備を語る上で、もう一つ大事な要素もある。社会人チームでもラグビーをしていた父親の全司(まさし)さんの影響で、松本哲も中学まで野球をやらない冬の季節はラグビーをしていた。ポジションはウイング。激しい接触プレーが多いスポーツをしていただけに、体の強さは折り紙付きだ。ダイビングなどの体を投げうってのプレーへの怖さは「ないです。前に飛ぶことに対してもない。ラグビーだったら人にぶつかっていかないといけない。それに比べたら、全然、マシなので」と笑い飛ばした。

 大柄な選手が並ぶプロの世界で、168センチはチームでは最も身長が低い。ただ、それを感じさせず、いつも躍動感あるプレーを見せている。

「体が一番小さいですし、そういった意味では気持ちの部分で負けたら、ダメだと思う。立ち向かっていくこと、体の強さを求めていきたい。プレーに入ったら、体が小さい、大きいは関係ないと思ってやっている。気持ちでは負けない」

 今季もしつこく攻め、走り、体全体を使った守備で、グラウンドを広く、大きく駆け回っていく。



PROFILE
まつもと・てつや●1984年7月3日生まれ。山梨県出身。168cm66kg。左投左打。山梨学院大付高から専大を経て07年育成ドラフト3位で巨人入団。加入直後の春季キャンプで機動力と守備力が認められ、巨人の育成選手としては初めて支配下登録される。08年に一軍デビューを果たすと、09年は二番・中堅の定位置をつかんで129試合に出場、新人王、ゴールデングラブを獲得し、チームの日本一に貢献した。現在はポジション争いの過酷なチームでレギュラーをうかがいつつ、守備固めとしても不可欠な存在となっている。
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苦悩しながらもプロ野球選手としてファンの期待に応え、ひたむきにプレーする選手に焦点を当てた読み物。

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