“目立ってナンボ”のプロ野球の世界。ただ、「何をすべきか」を明確にしたとき、前に出ることだけがすべてではないと悟った。『二番・ショート』を奪取し、自らの生きる道を示す。 文=田尻耕太郎[スポーツライター] 写真=湯浅芳昭、BBM ![](https://cdn.findfriends.jp/img.sp.baseball/show_img.php?id=3467&contents_id=p_page_070)
どこかあどけなさも残るが、プロ8年目のシーズンを終え、確かな自信ものぞかせる
入団時からの愛されキャラ
思わずうなった。今年5月21日の
西武戦(PayPayドーム)、
川瀬晃が奇襲を決めた。二死満塁から、まさかのセーフティースクイズだ。
1点リードの5回裏だった。川瀬は
森脇亮介の2球目の外角直球をドラッグバントし、二塁手の前に転がした。驚きが混じった歓声が本拠地を包む。その異様な雰囲気の中、川瀬は一塁に猛然とヘッドスライディングで飛び込み、適時内野安打をもぎ取った。
「常にスキがあればセーフティーバントを仕掛けようと、打席に入っています。その中で2アウト満塁のチャンスでしたが、思い切って自信を持って仕掛けた結果がいい結果につながりました。大きい追加点となって良かったです」 仮に投ゴロや一ゴロなどで簡単にアウトになれば、どんな非難の声を浴びただろうか。それでも
「事前に森(浩之)ヘッドコーチからも『チャンスがあったら狙いにいっていい』と言われた。一塁手も(位置が)下がっていたので勇気を持って」とベンチのサインではなく、自身の判断だったことを明かした。
9月7日の
ロッテ戦(PayPayドーム)でも好判断があった。4対3と1点リードで迎えた7回表、守備固めで三塁に入った直後に大きなプレーを見せた。無死一塁。送りバントを仕掛けられたが、規格外の猛チャージですぐさまボールを拾うと二塁へ送球。走者をアウトにしてピンチ拡大を防いだのだ。打者とすれば決して悪いバントではなかったが、川瀬のギャンブルとも言える守備シフトがそれを阻止した。場面を想定すれば、まだ無理をするイニングではなかったかもしれない。だが、川瀬は
「試合の流れを読んでいた」と絶対的な自信があった。このプレーもまた、ベンチの指示ではなかったという。
野球偏差値の高い玄人好みの選手──それが川瀬の印象だ。
こんなタイプは今どき珍しくなった。昨今の野球はテクノロジーの進化によってプレーの数値化や可視化が進み、速さや強さの質が驚くほど向上し続けている。だから、派手で華のある野球を好む選手がとても多くなった。
今季がプロ8年目だった川瀬。2015年秋のドラフト6位で
ソフトバンクから指名された当時は「
川崎宗則2世」との呼び声もあった。「内野手としてのセンスを感じさせる。川崎が入ったころを思い出す」というのがスカウト評。もちろん偽りはないが、それ以上にヒョロッとした背格好とあどけない童顔がかつてのスターを連想させた。入団時の体重は63kgしかなかった。
そして、そのころの髪型も相まって、プロ入りしてすぐに球団トレーナーから4コマ漫画の主人公でおなじみの『コボちゃん』のあだ名で呼ばれるように。いかにも純朴なキャラがピタリと当てはまり、それは一気に浸透した。
「監督やコーチにもすぐ呼ばれるように(笑)。入団して間もない自分を知ってもらうきっかけになったし・・・
この続きはプレミアムサービス
登録でご覧になれます。
まずは体験!登録後7日間無料
登録すると、2万本以上のすべての特集・インタビュー・コラムが読み放題となります。
登録済みの方はこちらからログイン