プロ入りした2010年以来、いまかいまかと開花を待たれていた逸材が、ついに目覚めのときを迎えているようだ。プロ5年目の筒香嘉智は、8月4日現在、セ・リーグ日本人トップタイの17本塁打をマークし、DeNAのクリーンアップの一角として堂々たる成績を残している。今季の好調の秘訣、そして現在の目標について、22歳の大砲の気持ちを語ってもらった。 取材・構成=佐野知香 写真=湯浅芳昭、BBM 失投を見逃さない集中力の高さ
──内野手登録ながら今季、左翼手のレギュラーとして、好成績を収めていますが、現在の心境は?
筒香 正直、これまでシーズン通して一軍でプレーできたことがなかったし、去年も調子が悪かったので、開幕の時点では自分がどうなるかという想像はできなかったのですが、外野守備も自分が思っていたよりもできたし、一応レギュラーにもなれました。ただ、それで「良かった」という気持ちにはなっていないですね。むしろもっともっと頑張らなければいけないという気持ちになっています。
──序盤は13試合連続安打(4月16日
中日戦=ナゴヤドーム~5月3日
広島戦=マツダ広島)など好調でしたが5月中旬ごろから調子が下降。しかし6月以降、状態は回復していきましたね。
筒香 バッティングは常に微調整がありますが、今季は自分の土台となる形がしっかりとできているので、それで調子を戻すことができたのかなと思います。
あとは、コーチに良いときと悪いときの違いというのを毎日見てもらっていることですね。映像で見ても自分では気付かない部分を指摘されることが何回もありましたし、バッティング練習の際の違いなどは自分ではなかなか気付けませんから、そういう部分ですごく助けられていると思いますね。
──毎日、自分のバッティングの映像を見ているのですか。
筒香 良いときの映像は毎日見ていますね。悪いときの映像は、悪いイメージがつくのであんまり見たくないんですが、本当に何か違うと思うときは見たりします。
──ほかにも調子を維持するためのルーティンワークはありますか。
筒香 試合前の練習で、グラウンドでの打撃練習の前に室内でも打っているんですけど、そこでは正面からのティーバッティングを毎日やっています。僕の感覚的に、横からボールが来るティーは実際の試合の打席とはズレを感じるので。
──苦手だと指摘されてきたインコースに対してはどう対応しているのでしょうか。
筒香 開幕前から真っすぐに対応できていないとか、内角が打てないと厳しいといった指摘は受けていましたし、多少は意識してきました。でも、左打者に対して、ツーシームやカットボール、シュートといったいろいろなボールを投げてくる投手が多いので、苦手なコースばかり意識し過ぎると、ほかの変化球に対応できなくなってしまうんですよね。すべてに対応するのは難しいですし、すべてがおろそかになってしまう恐れもある。結局、結果を出せば、それが正しいと言われるんだからと、もう苦手は苦手と割り切っています。でも、結果的にそれが現在の好調につながっていると思います。
──打率が上がるのに合わせて、7月以降は本塁打数も増えました。
筒香 打ち方自体は変わっていないので、ミスショットしてファウルになっていたものや、いい当たりのセカンドゴロ、ショートゴロというのが、きっちり一発でとらえられるようになり、そのヒットの延長で本塁打も増えたのではないですかね。
──今季は1試合2本塁打を4回記録していますが、固め打ちができる要因は何でしょうか。その4回のうち3回が広島戦ですが、それは関係がありますか。
筒香 僕自身、固め打ちに対してそんなに意識を持っていなかったので分かりませんが、調子の良い日はそれをしっかり成果に出せるようになったのかもしれません。広島戦でも打てない試合はありますし、相手は関係ありませんね。
──では、初球の打率(.476)が良いことについてはいかがですか。本塁打も6本記録しています。
筒香 相手投手や状況によっては、初球をまったく打つ気なく見逃すときもあるので、何がなんでも振るというわけではないですよ。ただ、相手の失投は常に一発で仕留めたいという気持ちがあって、打席での集中力というのは、今年はすごく意識しています。どの打席、どの展開でも同じ状態で入れるように気をつかっているので、それが影響しているかもしれませんね。
──リーグトップの得点圏打率(.450)も、その集中力のたまものですね。
筒香 自分が一番意識している数字が打点。打点がつけばつくほど、チームに貢献できているということになると思うので。なので、走者が塁にいる場面では自然と集中力が上がるのかもしれません。

中田(日本ハム)と並ぶ両リーグ日本人打者最多の17本塁打(リーグ3位タイ)、得点圏打率.450はリーグトップと、チームの後半戦の巻き返しには欠かせない存在だ(写真=井田新輔)
チームのために全試合で勝利に貢献
──今季はグリエル選手がチームに加入しましたが、一緒にプレーして何か得るものはありましたか。
筒香 すごいなあとは思いますが、右と左も違いますし、感覚が自分とは少し違うかなと思います。
──では感覚が近いと思う選手は。
筒香 よく話をするのは梶谷(隆幸)さんですね。例えば、バットの軌道は、僕は上からたたきにいくと左肩が出てフォームが崩れてしまうので常に平行を意識しているんですけど、カジさんに聞いたら同じことを意識していた。そうやって自分の感覚と一致することが多いんです。
ほかに僕は体が前に行くクセがあるのでそれはダメだねという指摘をもらったり、調子が良いとき、悪いときの感覚などについて話したりしています。
──ブランコ選手がケガで離脱している間は四番に座りましたが、そのとき何か感じたことは。
筒香 特別何も意識しませんでしたね。後ろに誰がいるかなどでは打撃も変わってくると思いますが、打順は四番でも、五番でも自分のやることは変わらないです。
──和製大砲が少ないと言われる中、日本人ではリーグトップの17本塁打をマークしています。スラッガーとしての大成を期待してしまいますが、筒香選手が理想とする打者像はどういったものですか。
筒香 チームが毎試合勝って、自分が毎試合勝利に貢献するのが理想ですけど、それはなかなか難しいので、一つでも多く勝利に貢献できた試合をつくるということですかね。もちろん自分のバットで決めることが一番ですけど、四球を選ぶことでも塁を進めることができますし、ヒットではなく犠牲フライでも点を取ることはできますから、どんな形でもいいので勝利に貢献することが理想です。なので、いまは大砲タイプの打者を目指してはいません。もしかしたら、今年のシーズンが終わって考え方が変わるかもしれませんが。
──今年の11月には日米野球が開催されますが、侍ジャパンへのあこがれはありますか。
筒香 う~ん、まだそこのレベルまでいっていないなというのが自分の感覚なので、特に意識することはありませんね。それよりもいまはチームのことしか考えていないです。いまは良いイメージを持って試合に臨めているので、残りのすべての試合に出場し、1つでも多くの勝利に貢献できるように頑張るだけです。

7月14~16日の広島3連戦(マツダ広島)では自身初となる2試合連続2本塁打を含む計5本塁打。写真は16日の試合の8回に放った16号ソロ(写真=湯浅芳昭)
PROFILE つつごう・よしとも●1991年11月26日生まれ。和歌山県出身。右投左打。185㎝97㎏。横浜高から2010年にドラフト1位で横浜(現DeNA)入団。1年目はわずか3試合の出場も10月7日の阪神戦(横浜)でプロ初安打となるソロ本塁打を放った。12年は三塁レギュラーとして109試合に出場も、13年は打撃不振に陥りわずか23試合の出場にとどまった。今季は内野手登録ながら外野に挑戦し左翼手レギュラーとして活躍している。14年成績は79試合出場83安打17本塁打58打点、打率.292。(8月4日現在)。