
昨年からボールが飛び出したと言われるためMLBも調査を始めた。来季は4つの項目を決め、30球場で統一化を図っていくという
MLBがよりボールの管理に力を注ぐことになった。全打球に占める本塁打率は2014年の3・2パーセントから、15年は3・8パーセント、16年は4・4パーセント、17年は4・8パーセントと年々増えてきた。一部の投手から「飛ぶボール」が作られているのではと疑惑の声が上がっていた。
ロブ・マンフレッドMLBミッショナーはそれを否定してきたが、同時に物理学、統計学、数学、機械工学など10人の専門家に調査を依頼84ページの報告書が提出された。調査グループのリーダー、イリノイ大のアラン・ネーサン名誉教授は「ボールの大きさや重さは変わっていない。しかしながらより飛ぶようになっているのは確かで、空気力学(エアロダイナミックス)が関係している。だがボールのどの部分がそうさせているのかは特定できていない」とした。故意に飛ぶようにしたわけではないが、結果的にボールは飛ぶ。管理をしっかりすることで、それを食い止めようというのである。
ボールについて調査グループは、中米コスタリカにあるローリングスの工場を視察し、さらには13年から17年の使っていない15ダースのボールを綿密に調べ、12年から17年の使用した22ダースのボールも点検した。10年から17年、ローリングスの工場で新しいボールをテストしたときのデータもチェックした。
一部の投手が年度の違う2つのボールを取り上げ明らかに違うと訴えていたが、「小さなサンプルでは不十分。われわれの結論は大きなサンプルを調べ上げた結果だ」とネーサン名誉教授は説明する。だがボールは飛ぶ。空気力学とは、流体力学の分野で、空気の運動や、空気中を運動する物体に作用する力を扱う。本塁打が増えてしまったのは、ボールへの空気抵抗が減ったからだ。
「ボールの製造過程のとても微妙な何かかもしれない。微妙でなければ我々は理由を突き止められているはずなのだが」ともネーサン名誉教授は言った。特定はできなくても、きちんと管理することで、事態を改善できる。今後、MLB機構は調査グループの勧めに応じ次のことを行う。
1つ目は30球場のボールの収納庫の温度、湿度を調べ、その上で19年、すべての球場にヒューマドー(給湿室)を置くかどうか決める。高地ゆえボールが飛ぶことで有名なデンバーのクアーズ・フィールドだけで使われてきたが、今年から砂漠地帯アリゾナのチェース・フィールドでも導入。効果てきめんで、今季は同球場で長打が減った。それを来季30球団で使ってボールの湿気を同じにする。
2つ目はローリングスの工場でのボールの製造過程を細かくチェックし空気力学のテストも行う。3つ目は審判団による試合ボールの準備の仕方を統一する。ボールが滑らないよう、デラウエア川で取れる泥でボールをこねるのだが、審判によってやり方がまちまち。時間をかけてきちんとやる人もいれば、クラブハウスのスタッフに任せっきりな審判団もいる。ネーサン教授は「どうこねるかで、ボールの手触りだけでなく、空気力学にも影響する」と指摘する。
最後4つ目は使用球専門の評議会を作る。より科学の力に頼りボールの質を安定さえ、野球の結果に極端な違いが現れないよう工夫していく。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images