日本をこよなく愛する助っ人

安定感抜群のマシソン。抑え起用は大賛成さ
今回は、スコット・マシソン(SCOTT MATHIESON)の話にしよう。現役は初登場だね。俺が知っている外国人選手の中で、一番日本野球をリスペクトし、日本の心を持っている男だ。
カナダ出身で2012年に
巨人に入った。俺のコーチ2年目。とにかく、球がべらぼうに速かった。
当時28歳かな。俺は十分、メジャーで勝負できる力があると思ったから「なんで日本に来たの」と聞いたことがある。
そしたら目を輝かせて、
「俺は練習が大好きなんだ。なのにメジャーはほとんど練習しないし、指導もしてくれない。俺はもっともっと野球を勉強したいんだ。日本の野球はパワーだけじゃなく、技術も高い。カワグチさん、俺にいろんなことを教えてくれ!」
って。びっくりした。
そんなこと言う外国人選手いなかったからね。
ただ、確かに勉強することはたくさんあった。
まず、一応、スライダーやチェンジアップもあったけど、一軍で通用する球は、真っすぐしかない。あと、セットポジションが止まらない、クイックができない。助っ人投手の悪いほうの三拍子が完ぺきにそろっていた。
一番、困ったのは、ファーストへの送球。最初のころ、試合でマシソンの前にゴロが行くと、マジで目をつぶったからね。
これは外国人選手に多いんだけど、速く投げようと思って、体が開いて腕だけで投げようとするんだ。そうすると、どうしてもすっぽ抜けたり、逆に指にかかったりする。
ただ、幸いと言うか、あまり際どいタイミングの投手ゴロがなかったんで、なんとなく無難に行っていた。だから、俺も練習はさせていたけど、本格的にやるのは、次のキャンプでいいかな、と思っていた。本人もそこまで真剣になってなかったしね。
それが、ある試合で、ついに大暴投をした。当然、他球団のスコアラーも見ているから「マシソン、送球に難あり」はすぐ全球団に伝わったと思うよ。
試合の後マシソンに「いまの投げ方では悪送球になって当たり前だ。正しい投げ方を教えよう」と言った。
要は、投げる方向へ、しっかり肩のラインをつくってから投げること。それをその後、毎日やらせてクリアした。
マシソンは、ほかの欠点も1年目の2012年に大体直した。
まあ、欠点があっても、あれだけ速い球があったから12年もあまり打たれなかったけどね。
翌年が連覇した13年。この年は
山口鉄也─マシソン─
西村健太朗の勝利の方程式が確立した。
阪神のコーチに言われたからね。「今の巨人を相手にするなら6回までにリードしなきゃ勝てない」と。
左の山口がストレートとチェンジアップで翻ろうし、マシソンは160キロ前後の快速球をバンバン投げ込む。そして、最後は、のみの心臓の健太朗が走者を出して、俺らをヒヤヒヤさせながらも、なんとか抑える。
味方ながら惚れ惚れする3人だった。いや、健太朗以外2人か。
マシソンは心も真っすぐ。打たれたときはヒートアップするけど、冷静になったら「さっきはすまん」と謝ってくる。日本の野球が大好きで、ほんといいやつさ。いまでも東京ドームに行くと必ず「早くチームに帰ってこいよ」と言ってくれる。
趣味はハンティング。マウンドに立ったときは、さすが狩猟民族って思うよ。目がギラギラしてるからね。カナダで狩りをしたときの写真も見せられた。ワニのハンティングが得意らしいね。
何度か「一緒にカナダに行って、狩りをしよう」と誘われたけど遠慮したよ。
狩りはヤダ、俺は食べるのが専門だからってね。
写真=BBM