
独自の理論の根底には、他を圧倒する“行動力”がある
球界屈指の“理論派”として知られる
金子千尋。代名詞となっているのは、“七色”とも呼ばれ、全8球種にも及ぶ多彩な変化球だ。
今まで投げたことのない球種は「ない」と言い切り、すべて一度は試してみたと言う。その中で、投げられないと思ったのはナックルだ。理由は明快で、ツメを立てて握る球種に「指の長さも関係するのかもしれないですけど、僕の場合は指が痛くなったんです」。
新球はブルペンではなく試合で試し、「打者の反応で使えるかどうかを判断する」。さらに「極端に言えば、曲がらなくてもいい。シュートにしても、真っ直ぐとそんなに変わらない。投げることに意味があるんです」と、相手に球種を意識させることを念頭に置く。
自らが行動を起こさなければ、何も始まらない。だから、トライすることにためらいはない。
独自の考えを貫く根底には、他を圧倒する“行動力”がある。実戦の中で磨く技術――。“理論派”と呼ばれる右腕だが、話しを聞けば“行動派”であることはよく分かる。
そんな右腕が、今オフに決断した
日本ハムへの移籍。2005年のプロ入りから14年間プレーした
オリックスの退団に、驚きを隠せない人もいるかもしれないが、“行動派”の右腕らしい決断とも言える。新天地で何を感じ、どんな投球を見せるのか。“変化”を“進化”の肥やしとし続けてきた35歳。減俸提示が決断の理由ではない。北の大地で、さらなる進化を追い求め、右腕を振り続けていく。
文=鶴田成秀 写真=BBM