
星稜高は春季北信越大会で優勝。捕手で主将・山瀬(左端)と150キロ超のエース・奥川(左から2人目)を中心に3季連続Vと格の違いを見せてつけている
機は熟した、と言える。
夏の甲子園における「全国制覇」とは、説明するまでもなく参加校で唯一、地方大会から黒星を喫さずに頂点に立つことを意味する。実力は当然のこと、さまざまな背景や諸条件が整って、はじめて深紅の大旗を手にできる。
最近の甲子園優勝校を振り返ると、確固たる“場数”を踏んできたチームに、勝利の女神がほほ笑む気がする。
例えば、2010年に沖縄勢初の春夏連覇を遂げた興南高。前年の春と夏は2年生エース・
島袋洋奨(
ソフトバンク)の力投も実らず、2季連続で初戦敗退を喫した。悔しさを糧に3年生エースとして戻ってきた甲子園では、経験値を武器に圧巻の投球を披露している。
2011年夏の日大三高(東京)も、前年春のセンバツ準優勝で悔しさを味わった主将・
畔上翔(Honda鈴鹿)、
高山俊(
阪神)、
横尾俊建(
日本ハム)ら2年生らが最上級生となってたくましさを見せ、センバツ4強を経て同夏には10年ぶりの優勝。2017年夏の花咲徳栄高(埼玉)は3年連続の埼玉代表と着実に実績を重ね(15年=8強、16年=3回戦)、大輪の花を咲かせている。また、大阪桐蔭は2017年春のセンバツを制したが、同夏の3回戦(対仙台育英高)では無念のサヨナラ負け。目標だった春夏連覇を逃した屈辱を胸に、翌年に史上3校目の春連覇、そして夏は史上初となる2校目の春夏連覇と「歴代最強世代」を証明している。
まだ、ある。今春のセンバツで平成初代王者の東邦高(愛知)が平成最後のセンバツを制した。その栄光の伏線には前年春、優勝候補に挙がりながらも初戦敗退の屈辱があった。つまり、甲子園での悔しさとは、この上ない、力を発揮するための原動力となるのである。
そこで、星稜だ。もう、味わいたくないほどの屈辱を味わってきた。3季連続出場で優勝候補筆頭に挙がった今春のセンバツは、習志野高(千葉)との2回戦で敗退。一連の「サイン伝達疑惑」があった一戦(審判員のジャッジにより疑わしき行為はなかったと判断)だ。すでに「最終判断」が下されたのにもかかわらず、星稜高・林和成監督が試合後の取材を終えると、相手校の控室へ直接、抗議をしに行った異例の行動が問題視された。学校側は一連の騒動を受け、林監督に4月上旬からの指導禁止の処分を言い渡した。指揮官不在の間は山下智将部長が監督代行を務め、冒頭のように県大会と北信越大会を制している。
北信越大会後、林監督の処分は解除され、2カ月ぶりに指導現場へ復帰した。この間、指揮官は反省の日々を過ごしたという。不在の間、山下部長がチームを支えたが、主役は選手たち。不安な毎日を過ごす中でも、結果を残し続けてきた精神的タフさは特筆ものだ。
これで騒動も一区切り。もう、怖いものはない。夏本番を前にして、林監督の指揮の下、ようやく日常を取り戻すことができた。まずは石川大会を勝ち上がり、4季連続の甲子園切符をつかむことが先決だが、目の前の戦いに集中できる環境が整った。選手たちは心機一転、林監督を信じてついていくのみである。
星稜高は通算32回の甲子園出場(春13回、夏19回)も、まだ全国の頂点に上り詰めたことはない。プロ注目右腕・
奥川恭伸(3年)とバッテリーを組む捕手・
山瀬慎之助(3年)は小学4年時からバッテリーを組み、星稜高でも1年秋からの中心選手。ほかのメンバーを見ても、星稜高ほど甲子園経験を積んだチームは全国、どこを探しても見当たらない。つまり「機は熟した」と、断言できるレベルに到達したと言える。昨夏の大阪桐蔭高のように攻め続ける姿勢、チャレンジャー精神を見失わければ、「悲願」は近づくに違いない。
文=岡本朋祐 写真=菅原淳