駒大・上野翔太郎は拓大との入れ替え戦2回戦を1安打完封勝利で、一部残留を決めた
学生としての神宮ラスト登板が「大学初完投初完封」とは、上野翔太郎はやはり、持っている男としか思えない。
拓大との一部二部入れ替え戦。駒大先勝で迎えた2回戦で上野(4年・中京大中京高)は1安打シャットアウト。春に続いて最下位の駒大は、この秋も一部残留を決めた。
「やっと、4年生らしいことができた」
9回表、最後の打者を上野の代名詞でもある、キレの良いストレートで見逃し三振。「残留したことよりも、この試合に勝てたことのほうが先。必死で、ゲーム中の流れる時間が早く感じた」。実際、テンポの良い投球で2時間6分。集中力を研ぎ澄まし、腕を振りまくった。
中京大中京高では3年夏の甲子園で3回戦進出。低めから浮き上がってくるように伸びてくる真っすぐの球筋に、何度も目を奪われた。日本開催だったU-18W杯では3試合、18イニングで失点0(0.00で最優秀防御率のタイトルを獲得)。プロ入りする東海大相模高・
小笠原慎之介(現
中日)、県岐阜商・
高橋純平(現
ソフトバンク)、秋田商・
成田翔(現
ロッテ)、仙台育英高・
佐藤世那(元
オリックス)を差し置き「日本のエース」として、銀メダル奪取に大きく貢献した。
プロ注目右腕も大学進学。だが、駒大では右肩を痛めるなど、もがき続けた3年間だった。
「1、2、3年までは全然、出てこられなくて、レベルの高いところをどう乗り越えていくのか? そういう経験がないので苦しんだ」
自分でそのハードルをクリアするしかない。上野は地道に努力を続け、3年秋に一部初登板を果たすと、4年秋の国学院大2回戦でリーグ戦初勝利(今秋は2勝)。13試合中11試合、すべて救援で来る日も来る日もマウンドに上がったが、チームは2季連続での最下位と、責任を感じていた。「入れ替え戦までの2週間、気持ちを切り替えて準備してきた」。
ラストシーズン。二部降格で卒業しては、後輩に見せる顔はない。拓大2回戦の先発は2日前に告げられた。当時、二部だった青学大3回戦以来、2度目。覚悟はしていた。
「ブルペンでは『俺が完封する!』と言っていた。調子が良かった? 決してそんなことはなくて、そのくらいの気の持ちようだった」
仮に2回戦を落としても、1勝1敗のタイで3回戦がある。しかし、上野は「今日を、最後にしたいと思っていた」と集大成のマウンドとして位置付け、110球を1人で投げ切った。「やってきたことを出せて、報われたかな、と」。卒業後は社会人で野球を続ける。
「自分の感覚、考え方がまとまってきた。社会人はレベルが上がりますが、通用するように、良い結果を残せるように、引退してからも準備期間としていきたい」
大学ラストゲームで、かつての輝きを取り戻した上野。まさしく、有終の美。ただ、入れ替え戦は公式記録に残らない。しかし、次のステップへ忘れられない「1勝」となった。
文=岡本朋祐 写真=川口洋邦