
プロ10年目のシーズンでついに自らの“力”を証明した荻野
ロッテの斬り込み隊長、
荻野貴司がついに1年間をフルに駆け抜けた。
「今までずっと裏切り続けているので、今年こそは、というのは毎年思っていることなんですけどね。今年で10年目。節目の年なので、本当に今年こそは、という思いは例年以上にありますね」
その思いがようやく形になった。今季、自身初の規定打席に到達するとリーグ3位の打率.315をはじめ160安打、35二塁打、7三塁打、10本塁打、46打点、28盗塁、76得点などあらゆる数字でキャリアハイを更新。外野手部門のゴールデン・グラブ賞も初受賞した。
これまでケガに泣かされ続けてきた。昨季も開幕から好調を維持しながら、シーズン途中に相手の投球を右手指に受けて骨折。それでも「悔しい思いはあったけど無駄な時間を過ごしたくなかったので、次に復帰したときにどうすればいいかを考えながら、できる限りのトレーニングをしていた」と次につながる準備をしていた。
だが、今季はまさかの開幕スタメン落ち。万全のフィジカルを取り戻しながら、打撃の感覚が狂った。オープン戦では打ちたいという気持ちが強過ぎてボールを迎えにいってしまい、下半身主導でクルリと鋭く回る自慢のスイングを見失っていた。短いバットにトライしてバランスが変わったことも影響していた。
そこからの鮮やかなV字回復を遂げたわけだが、特別なことをしたわけではない。バットの長さを戻し、「自分のスイングをしよう」ということだけを心掛けて振り込んだ。チームが開幕から一番を固定できない中で、調子を取り戻した荻野が“定位置”に戻ることは必然だった。
ケガさえなければポテンシャルは球界でもトップクラス。そう言われ続けながら9年が過ぎてしまったが、10年目にしてようやくそれが事実であったことを証明した。「今まで1年間やったことがないから、充実感とか手応えを感じたことがないんですよ」と話していたが、このオフは今までとは違った思いに包まれているはずだ。
2020年には35歳となるが、国内FA権は行使せずに残留することを表明。事実上、“生涯ロッテ”を貫くことを決断したと言っていいだろう。「周りからは『足が遅くなったな』とか言われることもあるんですけど(笑)。自分ではまだ落ちる歳だとは思ってないですし、足もバッティングも、まだ成長できる、伸びるところがあると思っている」と、老け込むどころかさらに成長する余地があることを感じている。
2019年にたたき出した数字こそが、荻野にとってようやく得ることができた基準点。さらなる高みを見据えながら、来季もチームの斬り込み役としてロッテ打線をけん引していくはずだ。
文=杉浦多夢 写真=BBM