
ロングティーを行う上林。夕日に照らされ輝いていた
目を奪われた。2月11日の
ソフトバンクキャンプ地・宮崎市生目の杜、徐々に日が暮れ始めるアイビースタジアムのグラウンドに
上林誠知の姿があった。「あぁ~」「飛び過ぎた」「惜し~い」。声を上げながら左翼ポールを狙ってひたすらにロングティーを打ち込む。鋭いスイング、きれいな放物線を描いて飛んでいくボール、時折見せる笑顔――。そこにいるのは、まぎれもない“上林誠知”だった。
勝負の年と位置付けた昨季、春季キャンプで腰周辺、開幕前にも背中の張りを訴え、極めつけは4月17日の
ロッテ戦(ZOZOマリン)でのデッドボールだった。当初、打撲と診断され、痛みがありながらも試合に出続けたが、後に右手薬指の剥離骨折(正式には『右第4中手骨掌側剥離骨折』)が発覚。約1カ月の離脱を経て戻ってはきたものの、結局、最後の最後まで状態が上がることはなかった。
シーズン終了後は右手の回復を優先。十分に休養したあとは人知れず、12月はアメリカ・ロサンゼルスで、1月は鹿児島鹿屋市でトレーニングを行っていた。取り組んでいたのは、肉体改造。新シーズンに向けて体を変えることが必要だと考えたのだ。
ストイックにしぼり上げた体で迎えるキャンプは、動きやすさ、疲れにくさを感じているという。力感がないのに飛距離が出ている打撃に客観的にも状態がいいのは見て取れたが、あらためて尋ねてみると「今、いいですね!」とはっきりと、うれしい笑顔と答えが返ってきた。
「年が明けたんで。去年は“厄年”だった。信じないんですけどね、そういうの。でも実際、身に降りかかってくると“厄年、やっぱすげえな”と思って。お祓いも行ったんですけど、ダメでしたね」
まだまだながら、“ばやし節”も戻ってきてるように感じる。
12日は生憎の雨だったが室内練習場で、
平石洋介打撃兼野手総合コーチが打撃投手を務める中、黙々と打ち込んだ。13日からは紅白戦が始まる。厳しい外野争いの中で、実戦での「結果は大事」だし、何より結果は自信につながる。ようやく戻ってきた上林の笑顔とばやし節を、もっともっと見せて、聞かせてほしい。
取材=菅原梨恵