
正式に開幕日が決まっていない状況でも、日々のトレーニングを黙々とこなす西。こういう非常時にこそ、西の経験が生きてくるはずだ
常に前を向く。それが
阪神の開幕投手を務める
西勇輝だ。「とんでもなく真っすぐが速いわけでもなく、すごい変化球があるわけでもないですから」という西。だからこそ先発で生きていくには、常に「試す」気持ちと「前を向く」気持ちで、自分を向上させてきた。
けん制球や、セットポジションの構えひとつにしても、試行錯誤を繰り返し、失敗もしながら自分のものを作り上げてきた。打者を打ち取る配球にしてもいくつものパターンを自分の中で見つけ出し、それを試し、ときに打たれながらも、打ち取る確率を上げ、現在の地位を築いてきた。
「これまで1日1日しっかり向き合ってきたことが生かせるのではないか、と思っています。今までやってきたことの経験が生きてくるかな、と」
今季、新型コロナウイルス感染拡大の影響で開幕が大幅に遅れ、誰も経験したことのないシーズンとなっている。その状況で、真剣に野球に取り組み、積み上げてきた経験が、こういう非常事態のときにこそ生かされるととらえている。
同時に野球を楽しむことも忘れない。メジャーや海外の野球を経験した先輩や選手たちから現地での雰囲気や経験を聞き「やはり野球は楽しいもの」ということも再確認している。だからこそ、マウンドでも笑顔でチームメートを励ますことができる。
2020年シーズンの開幕日、阪神のマウンドには西が立つ。対戦相手がどの球団だろうが、これまでの先発人生を凝縮したピッチングを見せるだろう。そして阪神ファンに勝利と笑顔を届けてくれるはずだ。
文=椎屋博幸 写真=BBM