読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は走塁編。回答者は現役時代、たびたび好走塁を披露した元中日ほかの井端弘和氏だ。 Q.中学2年生です。スライディングについて教えてください。例えば二塁ベースへのスライディングの際、コーチから「スライディングが近くて危ない」と注意されました(固定ベースです)。ただ、プロ野球を見ていると、阪神の近本光司選手も、ソフトバンクの周東佑京選手も、ギリギリまでトップスピードで走り、近めからベースに突き刺すようなスライディングを見せています。それをお手本にしたつもりなのですが、スライディングの基本を教えてください。(大分県・15歳)

盗塁を決める阪神・近本
A.プロはスピードを落とさないようにベースぎりぎりでスライディングをしていますが、足はしっかり伸びています コーチの「スライディングが近くて危ない」は決して間違った指摘ではありません。問題はどの程度の近さなのかだと思います。例えば、質問にも挙げられている
近本光司選手(阪神)や、
周東佑京選手(
ソフトバンク)は、たしかにぎりぎりまでトップスピードで走り、そのスピードを落とさないようにベースぎりぎりでスライディングをしていますが、ベースタッチする側の足はしっかりと伸びています。この「伸びている」状態でベースタッチすることが重要で、この状態でベースタッチができればケガのリスクを減らすことができます。
彼らはプロでもトップクラスのランナーですが、名前の挙がらなかった俊足の、走塁に自信のある選手たちは、スピードを落とさずにベースタッチできるように、このぎりぎりのところを繰り返し、繰り返し練習して身に付けているわけです。究極はお尻に土がつかないくらいの体勢でベースに突き刺すようなスライディングですが、これは本当に走塁の上級者が求める技なので、質問の方はまだ、そこまで考えなくていいでしょう。
一方で、ケガのリスクの高いスライディングというのは、滑り始めてベースタッチするまでに足を伸ばすことができず、中途半端な形でしか滑れない距離のもので、質問の方のコーチはこれを指して「近くて危ない」と注意しているのだと思います。足が曲がった状態でベースタッチすると、足首をねん挫したり、最悪、骨折をしてしまうこともあります。ですから、注意が必要なのです。
とはいえ、スライディングは足を伸ばせる距離であることを条件に、近いほうがいいに決まっています。遠くからスライディングをしてしまうと、滑っている間にグラウンドとの摩擦でスピードが落ちてしまうからです。
ちなみに、スライディング時に伸ばす足ですが、私の場合、高校時代は右足前しかできずその後も盗塁時などもこちら。ただ、場面によって例えばタッチを避けるために、右、左、どちらの足を前にしても滑れたほうが良いことは確かです。私も練習して左を前にして滑れるようにしました。ただ、練習時は不慣れなほうは危険が伴いますから、体育館のようなところでジャージを履き滑ってもいたくないような環境から始めるのがいいでしょう。ただ、無理に身に付ける必要もないと私は思います。
●井端弘和(いばた・ひろかず)
1975年5月12日生まれ。神奈川県出身。堀越高から亜大を経て98年ドラフト5位で中日入団。14年に
巨人へ移籍し、15年限りで現役引退。内野守備走塁コーチとなり、18年まで指導。侍ジャパンでも同職を務めている。現役生活18年の通算成績は1896試合出場、打率.281、56本塁打、410打点、149盗塁。
『週刊ベースボール』2021年5月24日号(5月12日発売)より
写真=BBM