荒れ球を長所に

3年目の今季、先発として好結果を残している巨人・高橋
首位・
阪神に追いすがる巨人。その戦いぶりは決して順風満帆だったわけではない。エース・
菅野智之は度重なる故障に加え、戦列復帰した後も調子が上がらず今季4度の登録抹消。現在はファームで調整している。セットアッパーの
中川皓太も左背部痛で6月22日に登録抹消。その後にろっ骨骨折が判明し、菅野とともに東京五輪の侍ジャパンに内定していたが、出場を辞退した。
DeNAからFAで加入した
井納翔一も先発、救援で結果を残せずファーム暮らし。開幕当初は先発ローテーションで期待された
畠世周も好調が持続せず、チームの方針で救援に回った。
投手陣に誤算が続く中、救世主としての活躍を見せているのが左腕・
高橋優貴だ。今季は開幕から5戦5勝、防御率1.80をマークし、3・4月度の月間MVPを獲得。その後も安定した投球を続けて9勝3敗、防御率2.51。リーグトップの白星で先発陣の中心になっている。2年目の昨季はオープン戦で発症した左ヒジ痛の影響で、わずか1勝のみ。覚醒した理由は何だろうか。他球団のスコアラーはこう分析する。
「毎回調子が良いわけではないけど、悪いになりに抑える術を身につけたような感じがします。あとは制球が結構荒れているのを長所にしている感じがする。打者は踏み込めず打ちにくい。素材としては良い投手だけど、ここまで良くなるとは思わなかった。エース級の働きですよね」
野球評論家の
川口和久氏も週刊ベールボールのコラムで、「昨年までは肝心なところで変化球をチョイスして打たれるケースがあったが、今年はストレート主体で攻めている。もちろん、ずっと攻めるわけじゃないよ。攻めながらかわすのが、ピッチングには重要だ。かわす、かわすではなく」と高橋の好調の要因を分析している。
高い潜在能力を持っていながら、殻を破れない。心境に変化が芽生えたきっかけは、3月14日のオープン戦・阪神戦(甲子園)だった。変化球でかわしながら5回1失点と試合は作ったが、
原辰徳監督から「闘争心というか、自信が(なく映る)ね。先発ローテに入るのなら、まだ他に適任者がいるのではないか。秀でてはいない」と苦言を呈され、ファーム降格を宣告された。
高橋はこの指揮官のメッセージを成長の糧にした。「技術もだけど、気持ちの強さも大事」と強気の投球を心がけて二軍での追試をクリアし、先発ローテーションの最後の枠をつかんだ。
四球を恐れずに腕を振る

粘り強いピッチングも大きな武器だ
八戸学院大学では北東北大学リーグ最多の通算301奪三振をマーク。スライダー、スクリューを操るが、相手をねじ伏せる最速152キロの直球が大きな武器だった。原監督は高橋が自分の長所を見つめ直してほしい思いがあったのだろう。制球は決して良いわけではない。39四球はDeNA・
濱口遥大に続き、リーグで2番目に多い。だが、四球を恐れずに腕を振り続ける。走者を出しても失点を許さない粘り強さが真骨頂だ。
首位・阪神にめっぽう強いのも頼もしい。今季は4試合登板して4勝0敗、防御率1.08。
大山悠輔を11打数無安打、
サンズを9打数無安打と完ぺきに封じ込み、
佐藤輝明も9打数2安打、打率.222で長打を一本も許していない。11日の阪神戦(甲子園)も7回1安打無失点の快投で、阪神のエース・
西勇輝との投手戦を制した。
高橋はシーズンを通じて1年間投げ切った経験がない。東京五輪をはさんだ後の後半戦は相手球団も研究してアプローチを変えてくるだろう。真価が問われるのはこれからだ。
写真=BBM