インコースに投げられなかった若手時代
育成で入団していた
宮國椋丞が
DeNAの支配下契約となった。
彼は2011年、俺の巨人コーチ1年目と同じ入団で、荒削りだったが、長身で柔らかいフォームをしていたし、将来楽しみな投手だと思っていた。
以前も書いたことがあるが、この年の秋季キャンプで見て、「来年は先発候補。彼が投手陣を助けてくれるかもしれない」と話して記事になったこともある。
12年は開幕から一軍に入り、右肩の故障もあったけど、6勝を挙げている。ただ、あの年、チームのスタートは最悪だった。2連敗から始まり、1つ勝った後、今度は5連敗だ。
このとき1勝7敗で迎えた甲子園の
阪神戦で、宮國がプロ初登板初先発で勝利投手となった。間違いなく、あそこからチームに勢いがついた。
結果的には交流戦、リーグ優勝、CS制覇、日本一、アジア王者とジャイアンツが5冠の年で、のち原監督も「あの12年の優勝は宮國がいなかったらなかった」と話している。
その後、先発から中継ぎに回った時期もあったが、右肩痛もあって20年はパッとせず、そのまま戦力外になった。
彼は真っすぐに角度と球威があってスライダーもいい。スケールの大きな選手だったが、一つ欠点があった。優し過ぎることだ。
どうしてもインコースを思い切って突けず、外角メーンのピッチングでやられることが多かった。
俺はコーチ時代、よくマウンドに行ってこう言っていた。
「インコースだ。もっともインコースにどんどん投げろ。それができれば最後はアウトコースのスライダーでもいいんだから」
でも、あいつはいつも微妙な顔で、
「とりあえず投げてみます」
みたいなことを言い、実際には投げ切れなかった。
アウトコースが逃げで、インコースが攻めというわけではないが、内をしっかり投げ切れないと外も生きてこない。
打者をのけぞらせるような球を投げろ、という意味ではない。しっかりインコースギリギリに投げ、ボール1個の出し入れで、詰まらせたり、ファウルを打たせたりし、そこから外を使う、あるいはインコースを投げ切って抑える。
それが大人のピッチングだと思う。
宮國、期待してるよ。
写真=BBM