3年前に創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。バックナンバーを抜粋し、紹介する連載を時々掲載しています。 首位を快走するカープ
今回は『1973年6月25日号』。定価は100円。
広島カープの球団事務所、渡辺事業課長がご機嫌だ。
「昨年は黒のマジックばかり減っちゃって。でも、今年は逆に赤いマジックばかりですわ。気持ちがいいってありゃしない(笑)」
事務所の左側の壁にある白いボード。ここにチームが勝てば赤、負ければ黒で丸を書き込む。
鯉のぼりの季節は終わったが、6月7日現在、広島は20勝14敗で首位。2位大洋とはゲーム差なしの4厘差だ。赤がどんどん減っていくのも分かる。
成績だけではない。観客動員もすこぶる好調。ホームゲーム17試合(岡山除く)で観客動員23万9500人、前年は13万9000人だった。
前年は
根本陸夫監督が休養するまで23試合で6勝18敗1分。1試合平均8000人ほどだった。
この年のカープの特徴はホームでの強さだ。これは
別当薫監督の戦略でもある。
「地元で勝つことを重視している。そのためには、ロードでどんなに苦しくても地元の3連戦には絶対にエースを持ってくる」
と言っていた。
新監督だけあって、別当監督は盛んに動いた。不振の三番打者・
衣笠祥雄を一番に入れたのもそう。途端に3安打猛打賞と結果を出した。
「トップを打つなんてプロで初めて。何より塁に出るのが先決なのでクリーンアップのときと大分違った」(衣笠)
新外国人のヒックス、
マクガイアもそれなりに好調。マクガイアはセカンド守備でも貢献していた。
ただ、オープン戦では別当監督が球団OBではないこと、新しい選手を使いたがることがファンの反発を買い、負け試合では「別当退陣!」とヤジられていた。
さらに追い打ちをかけたのが開幕5連敗。ベテランの
山本一義、
国貞泰汎らを控えに回すことが多かったこともあり、市民球場は荒れに荒れた。
「ブルペンにいると試合にも出ていないのに引っ込め、と言われる。弁当箱や空き缶、ビール瓶まで飛んできた。相手のスタンドかと錯覚したよ」
とあるベテラン投手。
あまりのことに球場入口でファンに協力を求めるビラを配り、警官を増員。さらに山本一義ら主力選手にファンに協力を求めるメッセージをテープを吹き込ませ、いざというときは球場で流すことになっていた。
それがこの快進撃で一変。日を追うごとに市民球場が盛り上がり、スタンドには「優勝」に二文字が入った旗も増えていた。
では、また。
<次回に続く>
写真=BBM