日本の審判の技術は極めて高い

4月24日に事件は起こった
雑誌のコラムにも書いた話だが、大きな話題になったことでもある。少し足してWEBでも書かせてもらう。
4月24日の
オリックス戦(京セラドーム)で、ボールの判定に不服そうな顔をした
ロッテの
佐々木朗希に対し、白井一行球審が怖い顔をして詰め寄ろうとした件だ。
佐々木は10日に完全試合を達成。そのあと8回を完全ペースで抑え込みながら交代し、さらにそのあとの試合で起こった事件だけに、プロ野球ファン以外からも注目されている。
あの球は確かに微妙だったが、前提として日本の審判の技術は極めて高いと思っている。海外ではオリンピック、WBC、メジャーと見ていてもストライクゾーンが上下左右ともアバウトだし、正直、一貫性がない。
それでも感心するのは、あそこまで
ジャッジがバラツキながら、とにかく自信満々。あれはあれですごいなと思う。選手もまず文句を言わないしね。
対して日本の審判は、几帳面な国民性もあって、コースぎりぎりを厳しくジャッジし、大きな破綻はない。うまいと思うが、いわゆるストライクゾーンが狭い審判がうまいと評価される傾向があるのも事実。ピッチャーにしたら、もう少しアバウトでもいいんじゃないかな、と思うときもあった。
白井審判の印象もまた日本的というか、きっちり見る審判だと思っている。あのときもストライク、ボールの判定に絶対的な自信を持っているから、それに不満顔をした若者に腹が立ったんだろうね。
44歳となると、20歳の佐々木は子どもでもおかしくない年齢。審判だって人間だから感情が出るのは自然だ。
ただ、怒ったからと言って、ああいう威圧するような態度をしたのは、どうかなとは思う。まずは冷静に注意するのが大人の対応だからね。
あと、ほかのOBも言っているが、佐々木に対して言うなら、審判を敵に回してもろくなことはない。これは日本球界だけの話ではない。というか、彼が目指すメジャーではもっとシビアなことになる。今から表情に出さない習慣づけをしたほうがいいんじゃないかな。
審判との距離感の問題もあるのか
……と偉そうに書いたが、それが分かるのは現役時代、俺も何度も審判を怒らせたからでもある。怒らせたらまったくストライクを取ってくれない審判もいて、投げながら「しまった。やるんじゃなかった」とそのたび思った。
ただ、昔は審判との距離がもう少し近かった。
もちろん、選手は審判と基本的にはあいさつくらいしかできないけど、ベンチ裏であったら「こんちは。元気ですか。この間はどうも」くらいにはなる。佐々木の場合、まだ3年目だし、コロナでそういう機会がなくなってきているのかもしれない。
あとはセとパの違いもある。要は打席に入るかだ。
例えば俺は大御所の福井宏さんが球審のとき、どうしても納得できなくて、打席で「さっきのストライクじゃないですか」と声を掛けたことがある。直接だと問題だから投手のほうを見ながらね。そしたら「1ミリ外れてる」って。向こうも顔は見ないけど返事をした。声は笑っていたような気がする。
当時は結構、そういう審判との人間くさい話も多くて、もうおじいちゃんだった
山本文男さんには、ど真ん中を「ボール」と
コールされ、しかも腕はストライクのときと同じに高々と上げていたこともあった(笑)。
そんな繰り返しで、この人のジャッジの傾向はこうなんだ、こういう性格なんだなと思って、親しみが湧いたりする。
これからも毅然として正しいジャッジを
審判は真面目でいい人が多い。厳しいけど、優秀だし、うまく味方にすれば、ピッチャーにとってすごく頼もしい存在だ。
もう一つ言えば、あの日のトラブルは、佐々木の調子が今一つだったこともある。フォーク、スプリットが引っ掛かって思うようにストライクが取れず、ストレートでしかストライクを取れなかった。
球自体は160キロが出ていたけど、スプリットがバシバシ決まった完全試合のときと比べたら、落ちる系は打者も見極めが楽で、真っすぐに合わせやすかった。
その中で何とか打たれまいと思うと、コースがさらに厳しいものになる。結局、それを取ってもらえないから、余裕がなくなり、あの「ええ、マジですか」みたいな苦笑いになったわけだ。俺も経験があるが、あの苦笑いは佐々木の悲鳴だなと思っていた。
今回に関し、俺は審判側にも佐々木側にもつかない。
というか、もう切り替えていいと思う。先日、審判長・友寄正人さんが「別の方法があった」と白井審判に指摘したという記事があったが、それで終わりでいいんじゃないかな。
知り合いの和尚さんに「審判の服が黒や紺なのは、裁判官と同じくどんな色にも染められないからです」と言われて、へえって思ったことがある(なぜ和尚さんとそんな話になったかは省略)。反省は反省として、だからと言って別に委縮はせず、これからも毅然として正しいジャッジをしていってほしい。
写真=BBM