10年間で9度の規定投球回クリア
防御率2.18と今季も抜群の安定感を見せている西
今季のセ・リーグで規定投球回数に到達している投手は計8人。1球団の平均人数で2人に満たないことを考えると、先発ローテーションで1年間投げ続けることは大きな価値があると再認識する。
その中で、リーグ2位の防御率2.18と抜群の安定感を見せているのが
阪神・
西勇輝だ。目を見張る剛速球、変化球があるわけではない。強みは総合力だ。相手打者を見る洞察力に優れ、スライダー、
シュートとベース板をいっぱいに使った横の揺さぶりに加え、チェンジアップ、カーブと奥行きを使った投球で打者を翻弄する。牽制、フィールディング能力も球界屈指。調子が悪いときも大崩れすることなく、きっちり試合をつくる。今季は23試合登板でクオリティスタート(QS、先発投手が6イニング以上を投げ、かつ3自責点以内に抑えたときに記録)が18度。チームメートで防御率2.07とリーグトップをキープする
青柳晃洋の17度を上回る。
オリックス在籍時の2011年から先発ローテに定着し、大きな故障がなく毎年コンスタントに活躍している。13年以降の10年間で規定投球回数に達しなかったのは17年のみ。FA権を行使して阪神に移籍した19年以降も4シーズンすべてでクリアしている。
西は今年2月に週刊ベースボールのインタビューで、こう語っている。
「今の阪神の若い投手たちは本当にすごい力を持った選手たちばかりです。彼らに比べたら、“西勇輝の真っすぐ”は速くないですし、特別スゴイ変化球があるわけでもない。それでも何とかここまできているのは、総合力で勝負してきたからだと思っています。そこはダメになったら僕自身ではなくなります。シーズンでは何度も同じ打者と勝負することになるので、もっともっと自分を磨いて総合力を上げていくことが大事ですから」
「一方でいいものをたくさん持っている若手には、今以上に積極的にいろいろなことに挑戦してほしいですよね。どこか『(2ケタ勝利を数年経験し、先発ローテを崩さない)僕らがすごい、抜けない』などと弱気に思っているのかな、と感じることがあります。そこは自分が必ず先発ローテに入るんだという気持ちを見せてほしいですし、期待しています」
十分に合格点をつけられる投球
31歳と中堅の域に入っても、飽くなき向上心は変わらない。昨年は通算100勝をマークしたが、6勝9敗、防御率3.76と不本意な成績に終わっただけに、今季にかける思いは強かった。対戦成績を見ると、
ヤクルト戦は3試合登板で1勝1敗、防御率0.86、
巨人戦は4試合登板で2勝1敗、防御率0.90とほぼ完ぺきに抑え込んでいる。打線の援護との兼ね合いもあり、9勝9敗と2ケタ勝利に届いていないが、十分に合格点をつけられるだろう。
そんな西は今オフの動向も注目される。8月29日に2度目のFA権を取得。他球団の編成担当は「パワー投手ではないので急激に力が落ちることは考えづらい。先発ローテーションで計算できる西は魅力的な投手です。FA権を行使した場合は複数球団が獲得に乗り出す可能性が高い」と分析する。
誰よりも強い矢野監督への思い
まだ戦いは終わっていない。今季限りで退任する
矢野燿大監督を有終の美で送り出したい思いは誰よりも強い。
西は「FAのときには矢野さんにはお世話になりましたし、矢野さんの下で優勝を目指してきましたので、何とか今年はその力になりたいという思いは強いです。そのためにはやはり、僕自身が与えられたポジションでしっかりと自分の役目をこなしていくことです。チームに関しても、それぞれが自分の仕事をしっかりこなしていくことで、チームの勝利へとつながっていきますので。退任の感傷に浸るということはなく、しっかりと自分の仕事をこなす。それが矢野監督の思いに対する答えかなと思っています」と語っている。
クライマックスシリーズに進出して下克上へ。可能性がある限り戦い続ける。
写真=BBM