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東京六大学審判練習会が開催 「究極のボランティア」であるアマチュア審判員

 

審判員へのリスペクト


実技の冒頭ではアウト、セーフなど、ジェスチャーの基本動作を確認した[写真=BBM]


 公認野球規則の冒頭には「1.00 試合の目的」とある。最初の項目である「1.01」には、こう記載されている。

「野球は、囲いのある競技場で、監督が指揮する9人のプレーヤーから成る二つのチームの間で、1人ないし数人の審判員の権限のもとに、本規則に従って行われる競技である」

 2019年12月から母校・慶大を率いる堀井哲也監督は学生に対して、こう説いている。

「試合はプレーヤー、監督、審判員の3つで成り立っている。『三者三様で努力していこう!!』という根底の下で、我々は審判員に敬意、感謝を持って接しないといけない」

 2024年からは侍ジャパン大学代表を指揮しているが、チーム発足の初日、まず、このメッセージを発信する。審判員へのリスペクトなくして、試合は成立しないからである。

 東京六大学野球連盟は今年、創設100年を迎える。1925年秋から6校によるリーグ戦を展開し、6校のOB会から派遣された審判員、公式記録員など、出身大学の卒業生で運営されている。ともに手を取り合う「共存共栄」の意識が高い。リーグ戦はゲームを進行する審判員と、加盟6校の信頼関係は強固である。

審判技術顧問の存在


 3月2日、審判練習会が行われた。2025年は慶大が輪番制である6年に1回の当番校で、同大学のグラウンドを会場にして行われた。

 午前9時に集合し、まずは座学。ルール改訂、アマチュア内規、連盟内規などを確認した。その後、グラウンドへ移動し、ジェスチャーの基本動作(アウト、セーフほか)、投球判定(ストライク、ボール)、実戦を想定したフォーメーションなど、約4時30分にわたって中身の濃いメニューが組まれた。

 100年の歴史を感じたのは、審判技術顧問の存在である。かつて審判員として活躍した先輩が指導員として、現役アンパイアにアドバイスを送る。同連盟役員であり、1プレー1プレーに目を光らせているのが印象的だった。伝統を一つひとつ、つないでいるのである。

 明大OBの山口智久審判員は言う。

「審判技術顧問からの助言は大きいです。言葉の一つひとつに重みがあります。審判員とは経験値がものを言います。審判スキルも大事ですが、心構え、失敗談を聞くことも大事。我々の中では1回、ミスしたことは2度と間違えてはいけないという教えがあります。一生懸命プレーする選手たちに応えるジャッジ。しっかりと、心に刻んでいるつもりです」

 山口審判員は大学野球のほか高校野球、社会人野球、国際大会と多くの場を踏んできた。「現場目線」がポリシー。審判員と両チームで試合を組み立てていく、温かみが随所に見られる。攻守交替のイニング間に「さあ、行こう!」と号令するのは、名物シーンである。

 53歳はキャリア十分で、ベテランの部類に入るが、この日も多くの気づきがあったという。何しろ、審判練習会のグラウンド内で、最も声を発していたのは山口審判員だった。気持ち良さそうに汗をぬぐってこう言った。

「大きな声と、大きなジャッジ。若手、ベテランも関係ありません。ゲームをマネジメントしていく上で、雰囲気づくりを大切にしています。先輩方からは『(審判員が)目立つな』とご指導をいただいたこともありますが、時には選手を鼓舞して、私はプレーヤーとともに試合進行をしていきたいと考えています。この日の練習会も、いかに試合と同じ空気感を生み出すことが大事。手伝っていただいた慶應の選手たちにも、プレーに集中できる声がけをしたつもりです。練習の練習では意味がありません。あくまでも、私たち審判員にとっても試合のための練習です。良い判定ができる機会になったと思います」

審判員の敵は「ビックリしてしまうこと」


午前9時から座学、実技で約4時間30分のメニューを終え、審判技術顧問からの講評などがあり、練習会は終了した[写真=BBM]


 東京六大学に限らず、アマチュア野球の審判員は、関係者の「熱意」によって支えられている。学生野球の審判員は職業ではなく、ボランティアであるからだ。本業の仕事と掛け持ちであり、職場の理解、家族のサポートがあって初めて成り立つ。山口審判員は明かす。

「情熱のある人はたくさんいますが、東京六大学を例に挙げれば、平日に試合が組まれることもあります。諸条件が整わないと、審判員を続けることはできません。あくまでも私見ですがいま、審判員として頑張っている方々は、仕事場でも信頼を得ている方だと思います。責任感がありますので……。グラウンドでも監督、選手からの信頼感、安心感を得られる判定をしなければなりません」

 山口審判員は独自のボランティア精神を語る。

「選手は野球人生のその一瞬に、すべてをかけている。一球一球に魂を込めてジャッジする。単にボランティアというのは、選手に失礼ですし、(審判員は)趣味でもありません。私は野球が好きで、特にアマチュア野球が好きです。1試合、1球にかける思い。1回しかない打席、1イニングしかない守備機会かもしれない。責任を持って判定する。私は『究極のボランティア』と位置づけています」

 2025年は東京六大学創設100年である。山口審判員はケガのため昨春、秋と神宮球場に立つことができなかった。治療、リハビリを経て23年秋以来の現場復帰。「人のジャッジを見ることで、たくさんの勉強がありました。スタンドから見てきた経験をプラスにしていきたい」。節目の年について、こう語る。

「創設100年のリーグ戦運営に携われることは幸せです。東京六大学の魅力を伝えていきたい思いがあります。私は、審判員は判定するだけではないと思っています。選手、スタッフ、審判員、応援していただけるスタンドの応援団(部)お客さんが一体感となるムードが、東京六大学野球の醍醐味だと思っているんです。私の立場としては、試合が終わった際に、皆さんが『良いゲームだった』と思えるような進行を考えていきたいと思います」

 審判員の敵は「ビックリしてしまうこと」だという。何を訴えたいのか。

「その場で起こり得るプレーを2通り、3通りをイメージしていないといけない。3つ目は、トラブルプレーの対処。プレーにマッチしたジャッジをするのが、永遠のテーマです。アマチュア野球界でもリプレー検証の話題が出てきていますが、仮に導入されることになれば、選手のために正しい判定をする。その根底は変わりません。毎試合、反省、課題が出る。そこをつぶして、次の試合に臨みます」

 この日の練習会は公認野球規則の「1.01」を再認識する時間となった。シーズン開幕に向けて、審判員も万全の準備をしている。

文=岡本朋祐
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