一度、主将のポストを外れて

部員164人を束ねる主将・空。チームリーダーの働きが、一発勝負である夏の広島大会の浮沈を左右する[写真=BBM]
広陵高グラウンドの得点板には、今春の県大会決勝(対英数学館高)で敗退(1対2)したイニングスコアが示されている。合計欄の表には「721」(夏日本一)、裏には夏の広島大会開幕までの日数。総仕上げの段階だ。外野手の主将・空輝星(3年)は意気込みを語る。
「自分たちは秋(県大会2回戦敗退)、春と悔しい思いで終わっている中で、夏に向けた練習で、控えの選手が率先して、ゲーム形式のノックのランナーとして入ってくれる。しんどいんですが、メンバーのために本気でサポートしてくれる。メンバー、控えにも一人一役がある。全員で勝つ。一戦一戦、その思いで戦っていけば目標の日本一につながる」
高尾響(トヨタ自動車)、
只石貫太(法大)のバッテリーで2023年春から昨夏まで4季連続で甲子園出場。夏は3年連続出場がかかる。
男子部員153人、女子部員11人の大所帯を束ねる主将のプレッシャーは計り知れない。
主将・空は1年時に
小林隼翔(立大2年)、2年時は只石のキャプテンシーを見てきた。
「やりがいがあります」
今年2月に一度、空は同ポストを外れた。広陵高・中井哲之監督はチーム活性化と、主将に勉強の時間を与える意図として「主将交代」に出るが、決して珍しいことではない。厳しさの中にこそ、愛情がある。チームづくりの上で、中井監督の指導ポリシーが表れている。
4月に主将復帰するまで、浅野晴登(3年)と下原勇人(3年)が大役を務めた。献身的に動く姿から、空の学びは多かったという。
「どうしても、視野が狭くなり、突っ走ってしまう傾向があったんです。一歩引いた形で、冷静になることができました。主将を外れたのは、良い時間だったと思います」
励みになる先輩の存在

グラウンドのスコアボードには、今春の県大会決勝[対英数学館高]で敗退したイニングスコア[1対2]が表示されてある[写真=BBM]
先輩の勇姿も刺激になっている。今季1年目の大卒新人である
楽天・
宗山塁(明大)と
西武・
渡部聖弥(大商大)だ。2人は大学3年の年末、母校の練習に参加。空は当時1年生であり、鮮明な記憶として残っている。
「(野球部の)清風寮で一緒に生活をさせていただいた身近な存在で、プロでの活躍は本当にうれしいです。(在籍が)かぶっていないのにもかかわらず、広陵の後輩ということで丁寧に教えてくれ、ありがたかった。打撃面で宗山さんからは軸足が折れ曲がるクセがあり、そこを修正いただき、渡部さんからはバットを構えた際。力みをなくす方法を聞きました」
恩返しは、結果で示すしかない。集大成の夏に向け、完成形に近づいてきた手応えがある。中井監督がエピソード明かす。
「毎年、控えの3年生が応援団を結成するんですが、親の許可、了承を得た上で進めています。先日、文化祭がありました。そこで吹奏楽部、ダンス部と合同での野球応援を披露するんです。立ち見まで出る約1500人。一生懸命やる姿に、涙が止まりませんでした。その日の練習前には『格好ええのう』と褒めました。一つの型を覚えるだけでも大変。応援歌は何曲もあり、必死になって取り組んでいた。自信を持って言えます。彼らは、世の中に出ても頑張ってくれる。こちらから説明するまでもなく、当然、メンバーは控えの動きを理解した上での行動が求められるわけです」
広陵高の統率された応援団を見に来ることを目的に、球場に足を運ぶ観衆も多いという。甲子園出場をかけた広島大会は、7月5日に開幕する。第1シードの広陵高は12日に予定される2回戦から登場。モットーは「一人一役全員主役」。164人全員が輝く夏にする。
文=岡本朋祐