浮上のきっかけをつかめず

慶大2回戦の第4打席[6回裏]は二死満塁のチャンスで迎えたが、遊ゴロ。第5打席は回ってこなかった[写真=矢野寿明]
【11月2日】
東京六大学リーグ戦第8週
早大3-0慶大(早大2勝)
東京六大学秋季リーグ戦は第8週で早大が慶大に連勝し、全日程が終了した。早大不動の一番・
尾瀬雄大(4年・帝京高)は3打数無安打。史上35人目の100安打まであと1本届かず、99安打で4年8シーズンを終えた。
この秋の開幕時点で90安打。東大との開幕カード2試合で4安打を放ち、好スタートを切ったかに見えた。3カードを終えて98安打。大台まで秒読みかと思われたが、ここから苦しむ。明大との2試合では8打数無安打。慶大1回戦で1安打を記録したものの、2回戦で神宮にHランプを灯すことができなかった。
1年時は春、秋で計1安打。2年春に中堅の定位置を奪取し、3年春には首位打者。4年春までの5シーズンで89安打を量産してきたが、学生ラストシーズンは打率.200(45打数9安打)と浮上のきっかけをつかむことができなかった。とはいえ、通算打率.328は輝かしい数字であり、結成100周年の東京六大学野球連盟の歴史に確かな足跡を残した。
尾瀬は慶大2回戦、第4打席となった6回裏二死満塁の好機で遊ゴロ。リードしていた早大は9回裏の攻撃がないため、第5打席が回ってくるかは、早大・日野愛郎部長はベンチ内の様子をこう明かしてくれた。
「もう1回、尾瀬に回せ!! という声があちこちで聞かれたんです。もちろん、チームメートも尾瀬の記録は知っている。そこで8回裏に4年生・
清宮福太郎(早実)がリーグ戦6打席目、学生最後の打席で初ヒット。必死の思いでつないでくれ、試合中でしたが、ベンチ内は多くの涙に包まれました。九番の次打者が倒れ、残念ながら一番・尾瀬の第5打席は回ってきませんでした。尾瀬はハングリーのある選手。この経験を卒業後のステージで生かしてもらいたいと思います」
大学4年間、指導してきた早大・
小宮山悟監督は「練習をやった者が勝つ」と、かねてから尾瀬の努力する姿勢を認めてきた。慶大1回戦を前に、100安打を手前にして足踏みしている理由を明かした。アスリートは出場している以上、絶対に言い訳はしない。
「右肘が悪かったんです。日によって痛い、と……。バットの振り過ぎか……。全体練習後、夜な夜な室内練習場で打っている。一部の部員しか見てないと思いますが、相当、振り込んできたことは確かです。本人は良かれと思ってやっているわけですから……」
“ドラフトショック”で……

慶大1回戦の第2打席で左前打。通算99本目が最後のヒットとなった[写真=矢野寿明]
慶大1回戦の神宮スタンドには、帝京高時代の恩師・前田三夫元監督が観戦に訪れていた。
「どうしても早実に行きたかったようですが、入試でうまくいかず、声をかけたウチに入学したんです。中学時代は内野手だったんですが、運動能力が高く、とにかく使い勝手のいい選手。打撃を生かすために、高校では外野手に転向させたんです。この4年間でたくましくなりましたが、あの体(172センチ80キロ)で99安打とは立派です。努力以外の何物でもない。(名前が呼ばれなかった)ドラフト当日に電話がかかってきたんですが、卒業後は社会人野球で頑張るそうです。『2年後のドラフトを目指し、小さい体でもプロでやれるということを見せてやれ』と声をかけました」
尾瀬は10月23日のドラフト当日、安部寮の自室で一人、じっと指名を待っていた。
「
伊藤樹(
楽天2位)と
田和廉(
巨人2位)が立て続けに指名されて、寮内が盛り上がっていたんです。これで呼ばれなかったらどうしよう、と……。めっちゃ、怖かったです。自分がこの4年間、残してきた成績には自信を持っていたので、何とか呼ばれてほしかったですが、なかなか厳しかったです」
立ち直るには、時間が必要だった。
「ドラフトのショックでしばらく、野球と向き合えない自分がいました。でも、早慶戦にあこがれて、この舞台で活躍したいと思って早稲田を目指して、早稲田を受験して、早稲田の門をたたいた。小さい頃からこのWASEDAのユニフォームを着たくて、練習してきました。自分の取り組んできたこと、やり残したことは一つもありません。最後、このステージで戦えたことは本当に幸せでした」
すべてを出し切ったからこそ、99安打も素直に受け入れることができた。慶大に連勝して勝ち点を挙げた試合後、尾瀬は涙を流した。言うまでもなく、100安打を逃した悔し涙ではなく、この4年間、関わってきたすべての人への感謝の思いから出た涙だった。
神宮で最も印象に残るヒットを聞いた。1年春の立大2回戦(5月15日)。4点を追う9回裏、先頭打者の代打で右前打を放った。
「初打席初安打です。早稲田に入りたくて、早稲田でプレーしたくて、高校3年間は勉強も頑張ってきたつもり。格別の一本でした」
早稲田愛は、誰にも負けない自負がある。
試合前の打撃練習。ウォーミングアップを前に、いつも一番にグラウンドに飛び出してくるのは背番号1を着けた尾瀬だった。徹底した準備力は、今後の野球人生でも力になる。
取材・文=岡本朋祐