続いては、元捕手の視点で今季の森下暢仁の投球を分析してもらった。登場するのは広島OBの名捕手・達川光男氏だ。今季の好調には、技術の進歩ももちろんだが、昨年得た経験と自信からくる気持ちの違いも大きいようだ。 写真=宮原和也 敗戦も糧にすればいい
昨年はルーキーで、右も左も分からない中、とにかく目の前の試合を必死に戦った感じだったと思いますが、昨年1年間投げて、ペースがつかめたというのが、今季の森下の好調の最大の要因だと思います。
精神的には、
巨人の戸郷(
戸郷翔征)との争いに勝って新人王を獲れたことが自信になったでしょうし、チームにも溶け込んで、立ち位置も確立し、気持ちも安定しているはず。体力的にも、昨年、大事に使って規定投球回ギリギリぐらいで抑えてもらって、投げ過ぎなかった。そのあたりは、即戦力で入っていきなりフル回転した経験のある
佐々岡真司監督の下でできたのは良かったと言えますね。
技術的にも、プロの体になってきて、1球1球に力強さが増してきました。ストレートも、逆球がなくなってきましたし、変化球も、カーブ、カットボール、チェンジアップと、すべて精度がワンランクアップしています。マエケン(ツインズ・
前田健太)に教わったというスライダーも使っていますね。
昨年は少し力んで投げていた感じもありましたが、投げるときのバランスがすごく良くなっており、一番難しい右打者のインサイドにもコントロールよく投げられているのが目立ちます。今年は、すべてのボールを自由に操れていますね。
ボールが安定してきたこともあり、カウントを取る球、空振りを狙う球と、1球1球のボールの意味も明確に考えて投げられています。また、「打ってこないだろう」というところでは軽くストライクを取ったり、ランナーが得点圏に行ったらしっかりギアを上げたりと、ピッチングのメリハリもつけられるようになり、いわゆる「勝てるピッチャー」の投球ができるようになっています。
配球面でも、相手以上に研究しており、初球の入りもいいし、「え、ここでカーブ?」みたいな、相手の予想外のボールも増えており、彼の、すべてのボールを同じ腕の振りで投げられる良さが生きています。
4月14日の
阪神戦(甲子園)では、プロに入って初めてのスライド登板や、気温の低さが影響したのか、負けを喫してしまいましたが(5回5失点)、これも、プロの厳しさをまた一つ教えてもらったと思って、これからの糧にしていけばいいと思います。
「2年目のジンクス」をうんぬんする人もいますが、昨年の森下とはまったく別の森下になっていますからね。森下は昨年の好成績にもおごらず、謙虚な姿勢を持っていますから、この調子でいけば今季の活躍は間違いないでしょう。防御率や勝率第一位のタイトル、さらには沢村賞だって、夢ではないと思いますよ。
達川氏が見た序盤戦BEST PITCH
村上を抑えた圧巻の投球 このときは、二、三塁ですから一打逆転のケース。一塁が空いていて、歩かせてもいい場面だったのですが、「ここで逃げたのでは、ずっと逃げなきゃいけない」というような感じで、村上何するものぞと勝負に行きましたね。初球はチェンジアップで入って、ストレートをどんどん見せて、1球カーブを挟んで、最後に高めのストレートで打ち取ったのは圧巻でした。「逃げたらやられる」ということを、昨年の経験で感じたのかもしれません。
PROFILE たつかわ・みつお●ドラフト4位で1978年に広島入団。捕手として頭脳的なリードで投手陣を引っ張り、5度のリーグ優勝、3度の日本一を経験した。99、2000年には広島監督も務めたほか、ダイエー・
ソフトバンク、阪神、
中日のコーチも歴任