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『堀内モデル』のグラブは万能用。三塁手や外野手も使うことができただろう【堀内恒夫の多事正論】

 

人一倍、グラブにはこだわっていた筆者/写真=BBM


 先々週号の二塁手の特集の中で紹介されていた現役選手のグラブへのこだわりを見ていたら、私もひと言、語りたくなってきた。たぶん、ひと言では終わらないだろうけど……。

 二塁手や遊撃手がグラブにこだわりを持つのは、彼らが「守りの要」だから当然かもしれない。選手が100人いれば、グラブも100個あるはずで、同じものはおそらくないだろう。既製品を使っている選手がいるとすれば、その選手はよほどの天才に違いない。操作しやすいグラブを求めながら、みんな自分の守りの型を作っていくのだ。

 投手にだってグラブへのこだわりはある。特に私は若いころからグラブに特別な思い入れがあり、自分が使うグラブには気を使った。今ではどこのチームでも当たり前のようになった、メーカーと使用契約をする選手のはしりが私たちだった。それまで、グラブやバットなどの用具は球団から支給されていた。入団から何年かして、巨人では私と高田繁さん、阪急の福本豊君、長池徳二(のち徳士)さんがミズノの契約選手になった。

 話は私の入団2年目にさかのぼる。前年、華々しいプロデビューを飾ったのだが、体のケアをおろそかにしたのがたたったか、自主トレで腰を痛めてベロビーチキャンプのメンバーからもれた。参加したら、当地でアメリカ製のグラブを買ってこようと思っていたのがパーになった。

 私が欲しかったのは、たぶん『ベースボールマガジン』に出ていた写真を見て知ったのだと思うが、スポルディング社製の「XPGP1」というグラブだった。自分が直接買いに行けなかったから、先輩の相羽欣厚さんに頼んで買ってきてもらった。アメリカ製のグラブは使っていると油が浮き出てくる。今のグラブは芯に油が入っているが、昔はバットでたたいたり、ボールを入れて縛って陰干ししたりして、自分で柔らかくしていた。今のグラブはそういう面倒なことはしなくてもいい。少し使うと油が中からしみ出てくる。ずいぶん使いやすくなった。

 私が使っていたアメリカ製のそのグラブを見たミズノのグラブ作りの名人、あの「現代の名工」の坪田信義さんがある日、「グラブを見せてほしい」と言ってきた。坪田さんはグラブを分解して、研究と改良を重ねてミズノ製の「堀内モデル」を作った。何年も同じものを使っていると、新しく持ってきたグラブが坪田さんの作ったものか、お弟子さんの作ったものかが、すぐ分かるようになった。

「堀内モデル」は、ほかの投手が使っているグラブよりも全体が重く、親指のところが強く硬くなっている。速い打球が飛んできても落とせるように、間口も広めにしてある。万能用と言ってもよく、外野手や三塁手でも使えただろう。このグラブのおかげもあり、1972年に創設された「ダイヤモンドグラブ賞」(現在の正式名称は「三井ゴールデン・グラブ賞」)を創設年から7年連続で受賞した。いいグラブを使って、いい守りをすれば、勝ち星も稼げる。現役時代は、スクイズを仕掛けられたとき、グラブに入れたボールを、そのままトスしてアウトにしたこともある。「芸は身を助ける」というヤツかな。この世界、グラブにおいては「弘法筆を選ばず」というわけにはいかないのである。

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