
5年目にして球界を代表する打者に成長した村上。三冠王達成の可能性も十分[写真=高塩隆]
2冠はほぼ確定
現在、12球団の中で最も注目を浴びている打者と言えば、
ヤクルトの
村上宗隆で間違いないだろう。本塁打と打点で2位以下を大きく引き離し、打率もトップグループにいるから三冠王のタイトルも射程圏内だ。
少し前の話になるが、5打席連続本塁打の日本新記録も達成した(7月31日対
阪神/甲子園-8月2日対
中日/神宮)。これは私から言わせれば打たれた投手たちに喝と言いたいところだが、確実にスタンドにボールを運んだ村上は大したものだ。私は常々、プロは数字、記録でこそ評価されると言い続けている。5打席連続本塁打はとんでもない記録だし、しばらく破られない大記録として残る。あっぱれだ。
こうなるとファンの興味は「令和初の三冠王誕生なるか」だ。私も多くの方から聞かれるが、可能性は十分にあると思っている。本塁打と打点の2冠は確定と言っていいだろう。8月14日時点で本塁打は41本。2位とは20本差近く離れており、100打点も2位とは30点差近くある。残り試合を考えても逆転されることは、まずないだろう。
私の開幕前のタイトル予想では本塁打と打点で
岡本和真(
巨人)を挙げたが、岡本の調子が上がらないうちに村上が大きく引き離してしまった感じだ。打撃が不安定な岡本に対し、村上はコンスタントに本塁打と打点を積み重ねていった。2人の差は四番の差として、チーム成績にもよく反映されていると言えるだろう。
2年目の
佐藤輝明(阪神)にも期待していたが、佐藤はすっかり中距離打者になっている。昨年前半に本塁打を量産したようにパワーはあるはずだが、なかなか結果を残せずに苦しみ、タイトル争いできるほどのレベルにはない。
ライバル不在で村上の2冠はほぼ決まりとして、問題はやはり打率だろう。8月14日時点では.320とリーグ3位。1位は
佐野恵太(
DeNA)の.325、2位は
大島洋平(中日)の.321で、4位の
宮崎敏郎(DeNA)の.312までを含めた争いになりそうだ。このライバル3人のうち、佐野は2020年、宮崎は17年に首位打者のタイトルを獲得している。大島は一度も首位打者にはなっていないが、19、20年と2年連続最多安打者だ。村上はこうした巧打者たちと打率争いを演じていくことになる。
打率の難しいところは上下動があることだ。本塁打と打点の数字は決して減ることはなく、数字が単純に加算されていくだけだが、打率はそうではない。打てば上がるのは同じでも、打たなければ下がってしまう。上がったり下がったり、まるで株のようなものなのだ。
私は現役時代、首位打者争いの常連だったが、いつもこの上がったり下がったりと戦い続けてきた。だから結果で一喜一憂することはなく、ひたすら1打席1打席に集中してきた。私は三冠王を狙えるような打者ではなかったが、私が村上へ三冠王へのアドバイスをするとしたら「我慢せよ」のひと言に尽きる。そしてどれだけ四球を選べるかが大きなポイントになると思っている。
タイトルは逃すな
いかにボールを見極め、四球をもぎ取っていけるか。村上が本当に三冠王を狙っているのなら、そこがカギだ。1試合4打席として、4打席凡退で終わってしまうのと3打席凡退に1四球で終わるのとでは、まったく違ってくる。その差がのちに大きな差となるのだ。
打ちたい気持ちが強いと、なかなかそれができない。しかし村上にとって幸いなのは2冠がほぼ確定していることだ。本塁打、打点もライバルたちと僅差で争っていたら、どうしてもタイトル欲しさに打ちたくなる。難しいボールに手を出して四球が凡打に終わる。そのうちに打撃が崩れ、タイトルどころではなくなってしまうのはよくある話だ。
その点では村上には余裕があるはずだが、問題はヤクルトのチーム状況だろう。大独走状態から、その差が詰まってきた。「自分が打たないと勝てない」と思い込むと強引な打撃になりがちだ。そこで我慢してじっくりと四球を選べるか、甘い一球を待てるか。今の村上に真っ向勝負を挑んでくる球団はないだろう。際どいコースを突き、歩かせてもOKというスタンスだ。そこで無理に手を出し、打率を落としてしまっては三冠王は遠のいていく。
そもそも三冠王を獲る秘訣は四球の多さなのだ。私の同期だった
王貞治(巨人)は1973、74年と2度の三冠王に輝いているが、四球は124と158だった。3度の三冠王の
落合博満(
ロッテ)も王よりはさすがに少ないが、85年と86年の三冠王のときの四球は100を超えているはずだ(ともに101)。我慢して四球を選ぶという意味では
ランディ・バース(阪神)も徹底していた。ストライクを振り、ボールを振らないという打者の鉄則を守れば、村上の三冠王は決して夢ではない。
三冠王というのは打者の夢でもあるが、その資格があるのは長距離砲に限られる。だから私や
イチロー(
オリックスほか)のような打者は望むべくもないのだが、その長距離砲にとって一番難しいのが打率なのだ。一発長打を秘める分、率は下がるのが普通だが、その率も高くては投手からすればお手上げ状態。どこに投げても打たれる気しかしないだろう。三冠王は過去に7人いるものの、誰もがそんなシーズンを送ったのではないか。
もしも村上が三冠王を獲得したら、史上最年少のようだ。まだ高卒5年目の22歳というから恐れ入る。打席での構えもどっしりしていて雰囲気があるが、もちろん難点も見られる。これはどの打者にも言えることではあるが、ステップがまだ広い。この修正には時間がかかるから、シーズンが終わったらぜひ取り組んでもらいたい課題だ。
タイトルは獲れる可能性があるときには徹底的に狙うべきだ。「結果的に獲れたら」などと言っていてはダメだ。しかも今回は三冠王という大偉業がかかっている。こんなチャンスはもう二度とないかもしれないのだ。三冠王に優勝ならこの世の春ではないか。令和初の三冠王誕生を期待している。
PROFILE 張本勲/はりもと・いさお●1940年6月19日生まれ。
広島県出身。左投左打。広島・松本商高から大阪・浪華商高を経て59年に東映(のち日拓、
日本ハム)へ入団して新人王に。61年に首位打者に輝き、以降も広角に打ち分けるスプレー打法で安打を量産。長打力と俊足を兼ね備えた安打製造機として7度の首位打者に輝く。76年に巨人へ移籍して
長嶋茂雄監督の初優勝に貢献。80年にロッテへ移籍し、翌81年限りで引退。通算3085安打をはじめ数々の史上最多記録を打ち立てた。90年野球殿堂入り。現役時代の通算成績は2752試合、3085安打、504本塁打、1676打点、319盗塁、打率.319。