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【MLB】10月のために作られたチーム「フィリーズ」の強さとは

 

10月のポストシーズンで昨季に続き快進撃中のフィリーズ。打線は一発を打てるシュワバー[右]とスターのハーパーなどのパワーがある選手をそろえ、投手はパワー投手を擁したアプローチでいい結果を残している


「マネーボール」のアプローチでチームを強くした人たちは、公式戦は勝てるが、短期決戦のポストシーズンは「運」だと決めつける。そんな中、フィリーズのデーブ・ドンブロースキー編成本部長は、10月に勝つことに主眼を置く。その手腕はもっと評価されるべきだと思う。

 今季もブレーブスに14ゲーム差を付けられ、ナ・リーグ東地区の地区優勝の可能性はゼロだったが、ポストシーズンではマーリンズに続き、ブレーブスを撃破。公式戦では5勝8敗と負け越していたが、3勝1敗と圧倒した。

 唯一落とした試合も、中盤まで4対0とリードしながら、終盤に逆転されたもの。ナ・リーグ優勝決定シリーズでもダイヤモンドバックス相手に2連勝(現地時間10月18日現在)。ここまでポストシーズン72イニングのうち57イニングでリードしており、追いかける展開はわずか2イニングのみである。

 JT.リアルミュート捕手は「10月の野球は公式戦とは別物でプレッシャーは大きい。でもうちのメンバーはそんな中でこそ力を発揮できる。一方で162試合の長い公式戦ではそこまで焦点を絞って戦い続けることはできない。われわれは10月のために作られたチームのように感じる」と言う。

 長年、プレーオフでは投手が良いから本塁打は期待できない、当ててつないでいくことが大事と信じられてきた。だが近年のメジャーはそうではない。2022年のポストシーズン全体の打率は.211。連打こそ期待できない。優勝したアストロズも.233だった。勝つのはホームランが打てるチームだ。

 フィリーズはパワーヒッターがずらりと並ぶ。ブライス・ハーパー、カイル・シュワバー、ニック・カステラノス、トレイ・ターナーらである。典型的な存在がシュワバーだ。

 23年の公式戦は打率.197、215三振(メジャーワースト)だが、一方で47本塁打、104打点、108得点である。126個も四球を選ぶから出塁率も.343と悪くない。そのため6月初旬から一番を打った。22年のポストシーズン最初の2シリーズは1安打と沈黙していたが、ナ・リーグ優勝決定シリーズとワールド・シリーズは6本塁打だった。

 今年も最初の2シリーズは0本塁打だったが、優勝決定シリーズは2試合で3本塁打。三振が多かろうが、打率が低かろうが、一振りでゲームの流れを変えてくれる打者が役に立つのだ。

 もう一つフィリーズが重視するのはブルペンに速球派を集めること。今季のリリーフ投手の真っすぐの平均球速は96.3マイル(約154キロ)で30球団最速。2位チームに0.5マイル、3位には1マイルも差を付けている。そして最初の2シリーズの5試合で97マイル以上は119球だが、長打は一本も許さなかった。

 とはいえ速い球を投げる投手は肩、肘を痛めやすい。そこで優秀なトレーニング&コンディショニングスタッフを雇い、バイオメカニックス部門に巨額の投資をした。おかげで今季40人枠に入った投手で負傷者リストに入ったのは2人だけ。登板過多にも気を遣い、フィリーズのブルペンのイニング数は543.1回と30球団で最少だった。

 こういったアプローチが功を奏し、この2年間ポストシーズンの台風の目になっているのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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