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今夏の甲子園広島大会決勝は、瀬戸内・山岡泰輔、広島新庄・田口麗斗両投手による、歴史に残る投手戦となった。再試合までもつれこんだ2試合19イニングで、スコアボードに刻まれたスコアはわずかに1。全国でも注目を集めた広島の両輪は、この夏、同じユニフォームに袖を通して世界を相手に戦った。互いを認め合う2人のライバルストーリーは、まだ始まったばかりだ。

取材・文=岡本朋祐(本誌特派) 写真=荒川ユウジ

田口麗斗&山岡泰輔
Kazuto TAGUCHI[広島新庄3年]PITCHER&Taisuke YAMAOKA[瀬戸内3年]PITCHER
切磋琢磨してこれからも高め合う



 今大会の精鋭20人で、昨年を通じても甲子園を経験していないのは1人。左腕・田口麗斗は高校日本代表入りに、頭を下げたい右腕がいた。「人生に1度しかないチャンスをこの手でつかむことができたのも、広島で切磋琢磨してきた山岡がいたから。甲子園の土は踏めませんでしたが、取り組んできた3年間が、間違いではないことを証明できました」

 春夏通じて初出場を目指した広島新庄と、瀬戸内の広島大会決勝は歴史的な投手戦となった。15回では決着つかず、0対0のドロー。山岡泰輔は広島新庄打線を1安打に抑えて15奪三振の163球。一方、田口は19奪三振で213球を投げ切った。

 中1日の再試合も1点をめぐる攻防。田口は8回に痛恨の失点を喫し、山岡はその1点を守り130球、24イニング無失点で13年ぶりの甲子園出場を決めた。田口は2日前とは一変、打たせて取る配球に終始し、86球の省エネ投球も1点に泣いている。

大会前に誓った世界舞台での共闘

 2人のライバルストーリーは1年時から始まっていた。同夏の県大会1回戦で両校は顔合わせ。山岡は2番手で登板したのに対して、背番号18の田口はブルペン待機。広島新庄は試合には勝った(6対0)が、田口は同級生の力投ぶりを強く意識したという。

 2年夏の準々決勝では先発で投げ合い、広島新庄が7回コールド勝ち(9対0)している。だが、新チームの同秋以降は状況が一変する。同秋の準々決勝で山岡が雪辱(3対2)を果たすと、今春の県大会決勝も瀬戸内が3対1で制している。連敗から3連勝。今夏、山岡がラストマッチで広島の頂点に立った。

 甲子園では明徳義塾との初戦(2回戦)で1対2と惜敗。県大会での疲労蓄積による右ヒジ違和感で、本来の最速147キロに、スライダーのキレも影を潜めた。だが、悪いなりにも要所を抑えるのがエース。大会後にはレンジャーズ・ダルビッシュ有が自身のツイッターで、山岡の投球を絶賛。「すごい選手なのでうれしいです」(山岡)。

 ちょうどこの直前、広島市内で“一席”があった。広島新庄と瀬戸内のメンバー計10人による食事会が開かれた。2人は球場で言葉を交わすことがあっても、ゆっくり話をするのは初めてであった。「甲子園は良い場所やった」(山岡)「俺も行きたかったな」(田口) 今大会はホテルで同部屋だった。「広島ではずっとライバルでしたが、同じチームでプレーするのも夢だったんです。日の丸に感謝です」(山岡) 

 今大会の投手陣の軸として、西谷浩一監督(大阪桐蔭)は桐光学園・松井を指名。ドクターKに次いで、全幅の信頼を寄せていたのが山岡だった。予選第2ラウンド進出を決めるまでの4戦、全試合ブルペン待機。ピンチや短いイニングでこそ発揮する、メンタルの強さを買っていた。その期待に応え、4試合に救援し無失点。ベストナインの救援部門に選出される活躍を見せた。

 強心臓では、田口も負けていない。「ここが俺の場所」とマウンドで仁王立ち。最速145キロの直球に、左打者の外角へ消えるように落ちるスライダーで打者を手玉に取った。昨夏の甲子園以来、桐光学園・松井を「ライバル」と意識。直球と変化球の腕の振りが同じであることを生で確認し、自らにも参考にしている。

 田口は早くからプロ志望を表明しており、複数球団が上位指名を検討している。ダルビッシュが自身のツイッターでプロ入りを勧めていた山岡は、複数の関係者の話を総合すると社会人入りが濃厚。3年後のドラフト解禁を待つ形となるわけだが、巨人・山下哲治スカウト部長は「ボールのキレがいい。社会人で磨けば、上位候補になる」と評価。高校卒業後、それぞれ違う道を歩むことになりそうだが、認め合う2人の友情は続く。


PROFILE
広島県出身。五日市観音西小3年時に投手として野球を始める。カープJr.で12球団トーナメント出場。五日市観音中では五日市観音シニアクラブ(軟式)に在籍。広島新庄高では1年夏からベンチ入りし、2年夏は背番号10の主戦で4強進出。今夏は初めて「1」を背負ったが準優勝。最速147キロ。変化球はカーブ、スライダー、シュート、チェンジアップ。

PERSONAL DATA
たぐち・かずと
170cm69kg/左投左打/1995.9.14生
[新チーム結成以降の成績]
12秋広島大会: 8強
13春広島大会: 準優勝
【13夏広島大会】
2回戦 6-0 海田
3回戦 9-1 美鈴が丘
4回戦 5-0 呉商
準々決勝 4-1 盈進
準決勝 7-2 如水館
決勝 0-0 瀬戸内
決勝 0-1 瀬戸内(再試合)


PROFILE
広島県出身。小学2年時からソフトボールを始め、瀬野川中では軟式野球部で県大会出場。瀬戸内高では1年夏からベンチ入りし、同秋からエース。2年夏に8強、同秋4強、今春県大会優勝とステップアップ。同夏は13年ぶり2回目の甲子園出場へと導いた。最速147キロ。変化球はカーブ、スライダー、カットボール、チェンジアップ。

PERSONAL DATA
やまおか・たいすけ
172cm70kg/右投左打/1995.9.22生
[新チーム結成以降の成績]
12秋広島大会: 3位決定戦敗退
13春広島大会: 優勝
13春中国大会: 準優勝
13夏広島大会: 優勝
【13選手権】
2回戦 1-2 明徳義塾(高知)
【甲子園通算成績】
1試合1勝0敗、9回2自責、防2.00
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