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12年に首位打者に輝き、独立リーグ出身者初のNPBタイトルホルダーとなったロッテ角中勝也。高校では甲子園出場もなく無名の存在だったが、四国・高知で才能を見出され、夢をかなえた。最高のモデルケースとなった若き打撃職人に、当時を振り返ってもらった。

最後の1人として高知に拾ってもらった

 僕はトライアウトを受験して高知に入団しました。試験は50メートル走や遠投、シートノックなどのほか、試合形式もあったのですが、そこで3打数ノーヒット。自分としてはあまり良くないと思っていて、合格は半分半分かな、と思っていました。

 後で聞いたところだと、最後の1人として獲得してもらったそうです。ちょうどチームが左打者を欲しがっていて、当時の森山コーチ(一人、現愛媛コーチ)が、僕が試合で打った高いキャッチャーフライを見て、決めたということでした。

 高校を卒業したばかりだったので、レベルはもちろん高かったですね。高校生だったら変化球でストライクを取れる投手はそれほどいませんが、四国ではそれが普通。周囲は大学や社会人でプレーしていた人がほとんどで、一段上だと感じました。

 1日の流れとしては、当時の高知にはナイター設備がなかったので、ホームでの試合は全部デーゲーム。朝起きて、球場に行って試合をこなし、帰っても夜9時くらいから、近くの公園でバットを振ったりして自主練を行っていました。オフにもほとんど遊んだ記憶はありません。たまに一緒に入団した同級生とドライブに行ったり、生活にも余裕がなかったのでお金をかけないように過ごしていました。

 本当に野球が中心の生活でしたが、つらくはなかったですね。高校だったら授業を受けて、放課後に練習をして、ご飯を食べてまた夜に練習。それと比べたら野球の時間も持てるし、自分の時間もたっぷりあった。それに少ないながらもお給料もありましたし、楽しいとは言わないですが、苦しいという思いはまったくありませんでした。

▲独立リーグから千葉ロッテに入団し、チームの中心選手として活躍を続ける角中選手


 レベルの高いところで1シーズンを過ごせたのはすごく良い経験になりました。試合数はNPBに比べると少ないですけど、大学と違って1年間がずっと野球のシーズンなので、ロッテに入ってからも戸惑いはありませんでした。

野球の技術はもちろん、人として成長させてもらった

 四国時代に特に思い出に残っているのは、NPBのスカウトの方が来ている前でホームランを打ったことですね。シーズンの成績はむしろ悪い方(85試合4本塁打28打点、打率.253)だったと思うんですけど、四国で最後の試合となったリーグチャンピオンシップ(対香川)で良いホームランを打てたんです。プロに入れたのはそれも大きかったかもしれませんね。

 森山さんや小牧(雄一、現ロッテブルペン捕手)さんら、コーチにいただいたアドバイスも大きかったですね。夜間練習にも付き合ってもらったり、本当にいつも練習を見てくれていました。元プロなので高校生のときには知らなかった技術や観点を教えてもらい、技術が上がったのはもちろんですけど、考え方の幅が広がりました。高校まではただバットを振っているだけでそれなりに結果が出ていたので、深く考えることもなかったですが、体をこう使ったら自然にバットが出るとか、いろいろな見方をできるようになりました。

 社会人に行ったら3年、大学に行ったら4年を経ないとNPBには行けない。入団前には2〜3年でプロに行けたら良いと思っていましたけど、高卒1年でロッテに行けたのは本当に良かった。

 あらためて当時を振り返ると、野球の技術もそうですけど、人として成長させてもらった場所だと思います。高校を卒業して一人の社会人として成長できたのかなと。多分、大学に行っていたらプロにはなれていなかった。四国だったからこそNPBに行けたのだと思っています。

 四国への恩返しは、ボクがNPBで活躍するのが一番だと考えています。僕やほかの出身者が活躍すれば、四国だけと言わず、ほかの独立リーグ全体の評価が上がるんじゃないかと。スカウトの方にも「使える選手がいるんだ」と浸透してくれると思いますし、もっともっと独立リーグに入団する人も増えるはず。そう思って頑張っています。

 僕が入る前の05年は育成で2選手がNPBに入って、僕の年も大学・社会人が2人と育成が1人。最初は指名されても下位でしたが、昨年は2位指名もあり、四国のレベルがどんどん上がっている証拠だと思います。本気でNPBを目指す人にとって大学、社会人以外の選択肢が増えたと思いますし、そこは本当にうれしい。

 もっともっと多くの選手がNPBに入って、その中で活躍する選手が出てきてほしいですね。四国ファンの方には四国も、卒業したプロの選手も応援してもらえれば。卒業生が活躍し、また四国への注目度が上がれば僕としてもうれしいですね。

PROFILE

角中勝也(かくなか・かつや)1987年5月25日生まれ。石川県出身。。180cm85kg。右投左打。日本航空二高から、四国アイランドリーグplus・ファイティングドッグスを経て、07年に大学生・社会人ドラフト7巡目でロッテに入団。12年に打率.312で独立リーグ出身者初の首位打者となり、13年のWBC日本代表にも選出された。
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