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 まだ甲子園に出場経験のない熊毛南高が昨秋、山口県大会で8強。「21世紀枠」で県推薦された。

 その原動力が最速143キロの山本晃希。エースで四番、おまけにキャプテン。「お山の大将」になりがちだが、捕手の村田克也は言う。

「普段は静かなときと、よくしゃべるときがありますが、マウンドではいつも冷静です。山本だから、みんなにヤンマーと呼ばれています。自主参加の朝練に毎日出ていたので、僕も出なきゃと影響されました」

 ヤンマーは口ではなく、大きな背中でチームを引っ張ってきた。



「5時40分起きで、6時半の電車で通っています。キャプテンだからというより、野球がやれるのは親のおかげだし、自分もうまくなりたいんで。苦に感じたことはありません」

 英語や国語より理系が得意だが、野球関係の本には目を通している。

「前田(健太)投手や黒田(博樹)投手の本を読みました。マエケンはルーティンを大切にしていて、試合前日には食べる食事や、当日に必ず風呂やトイレ掃除をするなど全部決めているそうです。試合への入り方や配球についても学びました」

 山本自身もユニフォームは左から袖を通し、靴下も必ず左から履くという。

「左から履かないとどうも自分が気持ち悪くて」

 マウンド上でのルーティンもある。

「ボールが先行したとき、いったんプレートを外して周りに声をかけるかロジンに触れ、『次は絶対ストライクが入る』と何度も念じるんです。するとほぼ狙いどおりに行くようになりました。メンタルトレーニングは、すごく自分のためになっています」

 やれることは、すべてやってきた。最後のオフシーズンも徹底的に走り込み、太ももは63センチ。下半身を安定させ、自信をもって臨んだ春の大会。だが、体重がボールに乗り切らず、秋のスピードが戻らない。真面目な性格のため、余計に考え込んでしまったようだ。春は初戦に登板しただけで、3回戦で敗退した。

 しかし、「野球の神様」は努力を見ている。6月頭から取り組んだ塁間ダッシュなどスピード系のトレーニングが実を結び、体のキレが戻ってきた。さらに大浪定之監督のアドバイスで、左肩の開きを抑え、投球時の右手のトップの位置も修正。7月に行った最初の練習試合で143キロを計測。完全復活を遂げた。

「これまでで一番いい状態です」

 スライダーのキレも出て、空振りも奪えるようになった。夏までの目標はツーシームの制球に磨きをかけ、決め球にすることだという。

 まだ指にかかったときのホップするような最高のボールと、抜けたボールがあるが、本格的な投手経験の浅さに伸びしろの大きさがある。なにしろ小学時代はソフトボールの捕手で、中学は軟式で主に中堅手。50メートルも6.5秒の足があり、フィールディングにも野球センスが感じられる。

 あとは優しい性格をかなぐり捨て、マウンドで荒々しくなれるか。

「『おりゃあ!』と打者に立ち向かう圧巻の気迫に欠けると言われますね(笑)。だけど最後の夏には見せてくれるでしょう」(大浪監督)

 プロ選手の夢に向かい、ヤンマーがマウンドで吠える姿を見てみたい。

PROFILE
やまもと・こうき●1996年5月2日生まれ。山口県出身。182cm、82kg。右投右打。小学3年時から花岡スポーツ少年団でソフトボールを始める。末武中では主に中堅手で、3年時のみ主戦のケガからエースになった。熊毛南高では、1年秋から一塁手で出場。2年夏にエースになり、初戦で13奪三振、ノーヒットノーランまであと1人(7回コールド参考記録)の快投で注目を集める。今春は初戦の聖光高戦に先発し、爪を割りつつ粘投。3対0で完封するが、その後は登板機会がなく、3回戦で敗退した。
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