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荒木大輔[野球評論家]が語る秀才右腕の可能性

東大と並び、国内最高峰の大学である京大から初のプロ入りを狙う田中英祐投手。大学日本代表候補にも選出された秀才右腕の投球を6月20日、同代表候補合宿の紅白戦(平塚)で見てきた。パッと見て感じたのは、投げっぷりが非常にいい、ということだ。則本昂大(楽天)をほうふつさせる投球フォームから、勢いのあるボールを投げ込んでいく。この日は自己最速を1キロ更新する149キロを連発。当然、まだ則本のような柔らかさはないが、その躍動感は非常に好感が持てる。

プロの指導でさらに伸びる余地を残している


大学日本代表合宿の紅白戦では、帽子を飛ばすほどの力投げで2イニングをゼロに抑えた



 スカウトに聞けば、リーグ戦で21回を投げ抜いたこともあったという。あれだけ体を目いっぱいに使って投げるフォームで、21回を完投したということは、相当スタミナがあることも容易に想像できる。十分にプロの枠に入ってこられる素材であることは間違いない。

 マウンドでは、いきなり連打を浴びてピンチを迎えたが、大城滉二(立大)をフォークで併殺、柴田竜拓(国学院大)は149キロのストレートで三邪飛に仕留めてゼロで切り抜け、さらに2イニング目も一死一塁から高山俊(明大)、谷田成吾(慶大)を凡打に打ち取り点を与えなかった。

 これまでの野球人生を見てみても、決して強豪校で白球を追いかけてきたわけではない。現在も勉強にも力を入れなくてはいけない中、十分な練習時間をとれてはいないだろう。

 すなわち、野球に対する絶対的な経験値がほかのドラフト候補たちと比べれば少ない。しかし、走者を出しても、ガタガタと崩れることなく、後続を打ち取ってみせた。そのあたりには投球センスを感じたし、大学トップレベルの打者を相手にも物怖じしない、精神的な強さも見せてくれた。こういった点もプロにおいては大きな武器となる。

 さらにノビシロも十分にあるのは間違いないだろう。これまで、そこまで高レベルの指導は受けてきていないだろうから、例えばプロに入って、もう一段上のアドバイスをもらったとき、ほかのドラフト候補より、技術の吸収率が高いだけに一気に飛躍する可能性は大きい。もっといえば、結局、今回の代表候補合宿を経て代表入りはならなかったが、この経験をしただけで一回りも二回りも大きくなるだろう。

 プロの若手投手でも、何かアドバイスをしてもまったく反応がない選手がいる。やはり、そういった形だとなかなか成長はしてくれない。しかし、田中投手は生来の頭の良さもあり、そういったこともなさそうだ。こういった点もレベルアップには欠かせない要素だ。

 今回の代表候補合宿で当然、自分の中で足りないところも感じたはずだ。もちろん、そういった点はまだまだ多い。例えばスライダー。曲がりは鋭いが、その曲がりを自分で完全に操っているわけではない。カーブ、カットボール、フォークなども持っているが、球種一つひとつのレベルは上げなければならない。

 これもスカウトに聞いた話だが、田中投手は「何としてもプロに入りたい」という気持ちが強いということだ。そういった思いがあふれていることは、何よりも大事だ。プロに入れたとしても、ドラフト下位指名かもしれない。しかし、そこがゴールではなく、活躍することが大切だということも、きっと分かっているだろう。いずれにせよ、非常に楽しみな逸材であることは間違いない。
PROFILE
たなか・えいすけ●1992年4月2日生まれ。兵庫県出身。180cm75kg。右投右打。米田西小4年時から塩市子ども会で野球を始める。白陵中から投手となり、白陵高では公式戦1勝。京大では1年春から登板し、秋から主戦となった。14年春の成績は10試合、3勝5敗、防御率1.73。今年6月、日本代表候補入りを果たした。最速149キロで動く球筋が持ち味の真っすぐ、変化球はカーブ、スライダー、カットボール、フォーク
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