週刊ベースボールONLINE

2016球界マネー特集
元ソフトバンク査定責任者・小林至氏が明かす契約更改や査定のアレコレ

 

プロ野球の世界におけるオフシーズンの風物詩と呼べるのが、選手たちの契約更改ではないだろうか。意外と知られていないのが球団と選手による「密室の攻防」。ここでは、元ソフトバンク査定責任者の小林至氏にその内幕を一部、明かしてもらった。また、同氏は現在、江戸川大教授として経営学を教える傍ら、スポーツビジネスの専門書を多数執筆。その立場から、日本におけるプロ野球ビジネスのあり方を語ってもらった。
取材・構成=小林光男、富田庸、写真=BBM

大学での授業、執筆、講演など、大忙しの日々を送る小林氏



年俸に正解はなくより良い計算式を模索


――契約更改交渉の席は、一般的にはうかがい知れないものです。その内容を聞かせてください。

「ホークスも含め、各球団にはそれぞれ、成績を細かくポイントに変換した評価基準があります。それは長年の積み重ねを経て、とても細かく、方程式化されており、十分に説得力のあるものだと思います。しかし、それが最終的な年俸になるわけではありません。数値に表れない価値や、過去の実績などの無形の資産も年俸に反映しますし、同じクラスの他球団の選手も横目に見つつ……ということになります。

 ということで、提示する年俸は“市場価格”に近い数字になります。丼(勘定)というのであれば、その通りでしょう」

――具体的に、その金額を算出する方法はあるのでしょうか。

「まず、すべてのプレーをポイントに変換します。野球は、数値と極めて相性の良い競技ですから、これ自体はそれほど難しくない。ましてやいま、セイバーメトリクスの発達で、各プレーの価値が、守備・走塁も含めて、算出できますからね。難しいのはポイントの単価です。例えば、1000万円の選手と3億円の選手がある年に20勝を挙げたとして、翌年の年俸が同じというわけにはいきませんよね。ただ、この実績を計算式でどう表現するかが、難しい。正解はありませんから、査定担当一同で相当研究しました。

 幸い、統計学、それを算出する計算ソフトを使うのが得意な人間がいましたので、さまざまな乗数を駆使して、適切な金額を出せていると思います。しかし、なにぶん正解がありませんから。より良い計算式は、常に模索しています。他球団の選手の数字も出して、新聞などで発表される推定年俸と比べることから、ヒントを得ることもあります」

――当然、提示した金額について揉めることもあるはずです。

「大事なのは選手、球団、双方の納得感ですよ。選手は『あそこのアイツはあれだけもらっている……』とか、『ウチのアイツは……』というようなことをよく言いますし、納得できなければ保留します。でも、こちらも綿密な協議を経て、会社組織として意思決定をしたわけですから、簡単に覆すわけにはいきません。フロントの責任者としては、部下が苦労して作り上げた数字でもあります。

 この点、MLBのフロントは楽ですよ。年俸調停の権利を得るまでの3年間は、三冠王を取っても最低年俸を提示するだけで、交渉の余地なし。日本の場合は、新人相手でも納得するまで交渉するわけですから」

世界一を目指すソフトバンク・孫オーナーの情熱が大金を動かす。そしてチームを大型補強し、2年連続日本一につなげた



企業がプロ野球の球団を持つ意味


――小林さんがいた当時のソフトバンクはどうだったのでしょうか。

「私が責任者になってから、信賞必罰でいこうという方針になりました。ダイエー時代の後期は、親会社の経営状況もあったのでしょう、年俸も含め、かなり締めていました。親会社が、日本を代表するIT会社のソフトバンクに変わり、期待され、それに応えているうちに、ちょっと緩くなり過ぎていた。プロ野球はある種、日本の縮図で、実力がすべてと言いつつも、年俸はベテランに配慮した年功序列型になりがちで、その分、若手がワリを食っていたのです。

 これを、私が担当になったのを機に、信賞必罰に近い形に変更しました。そこには、プロ野球の年俸を、よりプロらしい報酬体系に改革したいという狙いもありました。

 しかし、改革はいつの世も難しい。特にカネが絡むと大変です。あのときも、『新査定』、『信賞必罰』、『成果報酬』などの刺激的な言葉がマスコミで先行してしまい、実績のある選手は疑心暗鬼になったのでしょう。すさまじい反発でした・・・

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