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2016キャンプレポート
西武・秋山翔吾インタビュー「何かを感じてもらえるような選手に」

 

昨季、他球団の投手陣を恐れさせたライオンズの安打製造機が、南郷の地で静かに牙を研いでいる。シーズン216安打の大記録を樹立した打棒。それがさらにどこまで進化するかに注目が集まるが、むしろそれよりも本人にはチームの中心選手としての自覚、責任のほうを大きくとらえているように見える。新たな地平に立った背番号55の6年目、その胸の内に迫った。
取材・構成=小林光男、写真=桜井ひとし

果たして何をもって“一番”というのか


シーズン最多216安打という頂――。昨季、前人未到の大記録を打ち立てた秋山翔吾だが、本人の中で球界の歴史でトップに立った感覚というのは、それほど強くない。それどころか記録に対して、少し視線をずらして、真正面からとらえ切れない自分もいる。記録に対する思考の旅を始めると、どこまでもさまよってしまうのだ。

「例えば安打数にしても、打者によって試合数、打席数、打順などすべて同じではない。対戦投手にも差はありますし、条件が違う中でプレーしているわけですから。イチローさんとも比較されますけど、イチローさんは130試合で210安打ですよ(秋山は143試合)。それにいつか公式戦の試合数が増えれば、僕の記録なんて簡単に抜かれてしまうでしょう。そう考えたら、比較は難しいですよね」

卑屈というか、そんなとらえ方をしなくてもいいだろうと周囲は思うんでしょうけど――と秋山は言葉を継いだが、そこには天狗にはならないと、自らの心を戒める気持ちが自然と働いているように思う。昨季、安打を積み重ねているときから同様だった。自身がよく言葉にしていたのは、この大爆発は「突然変異のようなもの」。それまでのプロ4年間で打率3割をマークしたことがなく、年間安打も2013年の152安打が最多。そこから昨年は216安打を放ち、打率・359の大躍進を果たしたが、自らの取り組みが正しかったのかどうかの確信は現時点ではまだない。すべては今季の結果にかかっている。

写真=小山真司



――昨季はバットを寝かせて構えることが奏功し、打撃技術に変革をもたらしたことで安打を量産、メンタル面でも「脱完璧主義者」を貫いたことが成功しました。心技体でいえば、どの部分が最も好成績の要因になったのですか?

秋山 最終的には打ち方やボールのとらえ方よりも、心の部分が一番大きかったでしょう。会心の当たりがピッチャーライナーになっても、ピッチャーが触らなかったヒットだったと納得できないことが一昨年まで数多くありましたけど、昨年は逆に言えばボテボテでもヒットになることはある、と。さらに、もし同じ球が来て、違うとらえ方をすればヒットになるかもしれないと後悔するのも、その打席に引っ張られ過ぎてダメですから。どんなアウトであっても、「それが野球だな」と思いながらプレーしました。



――たとえヒットを打っても、気持ちを切り替えるようにしていたんですよね。

秋山 乗っていきたい気持ちはあります。ただ一昨年まで、例えば3安打して迎えた4打席目で、調子がいいからと多少強引に打っていくことが結構あったんですよ。でも、それで打撃が崩れることも多い。ストライクゾーンを自分で勝手に広げてしまうことにつながったり、きっちりとらえたいと思って受け身に回ったり。状態が良かったはずなのに崩れていく伏線は、実はそういったところにあって、訳が分からなくなって調子を落としていく。だから当然、捕手の配球や投手の攻め方はつながっていますけど、打席に入るときはしっかり新鮮な気持ちでというか、極力前のことを切り離そうと考えていました。

――今年も「脱完璧主義者」は続行?

秋山 そうですね。打ち方は攻められ方や体調によっては、もしかしたらシーズン中に変わることはあるかもしれない。でも、考え方はそんなに大きく変えなくてもいいのかな、と。去年、それでうまくいったので。でも、それでも結果が出なければ、考え方も変えないといけないときがくるでしょう。あまり、昨年をなぞり過ぎるのも良くないですから。とにかくそのとき、そのときで自分に必要なものをチョイスして、後悔のないようにシーズンを過ごしていくことが大事でしょう。

――確かに昨年を経験して引き出しも増えたのでは?

秋山 大きな変化を与えたところがうまくいったこともあって、少しは取り組むポイントであったり、結果が出たから自信になっているところもあったりするんですけど……まあ、立ち返るところは何個かできたかなと思います。まだまだ足りないところや勉強することもたくさんありますが、例えば打撃で言えば、とにかく足を上げることであったり、体を極力前に出て行かないようにすることであったりとか、そういう、ピッチャーに対して入っていきながらできることというのは増えてきたかなと思いますね。

――それは安心感につながるのではないですか。

秋山 やっぱり、今年をやってみてだと思いますね。何年も結果を残している選手は、その考え方が良かったのか、悪かったのかは、把握できていると思いますけど。僕は今年、それが分かるシーズンでもあると思います。もし、新たなシーズンで3割を打って、200本近くまでヒットが出れば「まぐれじゃなかったんだ」と自信になるでしょう。

守備、走塁も疎かにしたくない




秋山は不器用な選手でもある。まず、思いつきで物事を簡単に始めることができない。自分の中で筋書きを立て、しっかりシミュレーションしなければ一歩を踏み出せない質だ。自分の中に大胆に何かを取り入れることが苦手。だから、入団時からバットの形も大きく変化はしていないし、できれば打撃フォームも微調整の利く範囲で済ませたい。ただ、不器用だからこそ、例えば体に覚え込ませるために一つの作業を黙々とこなす能力がある。マイナス面をそのままに終わらせないところもまた、背番号55の能力のように思う。貪欲に学ぶ姿勢も同様だ。昨年11月には日本代表として、国際大会「プレミア12」に参加したが、侍ジャパンの一員として過ごす日々でも刺激を得た。

――例年と違い忙しいオフを過ごし、刺激を受けたこともありますか。

秋山 それまでの4年間に比べれば、いろいろな場を与えていただきましたからね。プレミア12でも、他チームの一流選手の練習を間近で見ることができ、話すこともできたのは、すごく勉強になりました。

――特に参考になったのは?

秋山 ヤクルトの川端(慎吾)さんとは本当に少しなんですけど話をさせてもらって。川端さんは二番で195安打ですから。バントをしない二番といえど、制約の多い打順で200本近いヒットは本数以上に価値があると思います。あとソフトバンク中村晃君もそうですけど、自分とスタイルが近いと思っている選手をじっくりと見させてもらって、同じヒットにしてもアプローチは違うんだな、と。例えばバットの角度であったり、タイミングであったり、待ち球であったり……。川端さんの高めのボールの打ち方なんて、だいぶ僕とイメージが違う。同じことをやろうとしても、考え方が一致していないと、うまくいかないところもあるので。だから話を聞いて、これはマネができないな、と。違う世界があるんだと思いましたし、とにかく勉強になりました。

――キャンプでの調整も順調に進んでいるようですが、現時点での理想の選手像はどういったものですか。

秋山 まず思うのは、僕は守備で試合に出ている選手なので。打撃で昨年のような記録を残したからといって、守備の部分疎かにする気はまったくありません。ただ、打てばいいという考えではない。やっぱり守れる選手は、安定して試合に出続けることができるというのは感じていますから。守備に波がなければ、投手、首脳陣、そして野手同士もそうですが安心して見てくれると思いますし、それが信頼感にもつながるでしょう。

――攻守走でも“守”に対する比重は高い。

秋山 外野手である以上、最低限のバッティングは必要だと思います。ただ、センターは外野手の中で守備機会は多いですから。投手が苦しくなったときに三振を取らないといけないと窮屈な考えになるのか、打たせても後ろがしっかり守ってくれると余裕を持つことができるのか。しっかりと守れれば、投手をラクにさせられる。当然、ファインプレーの数を増やすというワケではなく、投手に安心感を持たれるような、堅実なプレーを心掛けたいと思います。

――“走”では昨年に引き続き20盗塁が目標と宣言しています。

秋山 今のところ、最も大きな課題です。中学生のころ陸上部だったといっても長距離がメーンで走り方までしっかりとやっていないですから……。僕はホームランを打ってホームにかえってくるというような、長打をそんなに狙って打てる打者ではないので。相手へのプレッシャーのかけ方も、もうちょっと違う角度でやらないといけないので。やっぱりこのキャンプであり、シーズン中であり、走塁に関して取り組む時間は多くなってくると思います。

――目標は当然優勝だと思いますが、その中でどのようなプレーを心掛けていきたいですか。

秋山 そうですね。気持ちを前面に出すとか、当たり前ですけど、気持ちを抜かない、緩んだプレーをしないとかはあります。それに後輩も多くなってきましたから。昨年の記録も含めて、試合に出させてもらっている以上は、自分の姿を見られるという責任もより出てくると思います。それを背負いながらでも試合に出て行くのが選手にとってやりがい。自分らしさは変えずに、何かを感じてもらえるような選手というか、プレーをしていきたいと思いますね。



PROFILE
あきやま・しょうご●1988年4月16日生まれ。神奈川県出身。183cm85kg。右投左打。横浜創学館高から八戸大を経て11年ドラフト3位で西武に入団。プロ3年目にフルイニング出場を果たし頭角を現すと、昨季はシーズン最多の216安打を放ち、打率.359をマーク。侍ジャパンの一員としてプレミア12にも出場した。主なタイトルは最多安打(15年)、ベストナイン(15年)、ゴールデン・グラブ(13、15年)。
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