週刊ベースボールONLINE

球界インサイドレポート

広島 23年ぶりのVへ訪れた試練

 

1ゲーム差に迫って迎えた9月2日からの巨人との首位攻防戦。広島は屈辱の3連敗を喫した。勝負どころで勝ち切れなかったのは、昨季のクライマックスシリーズと同様。立ちはだかる巨壁を打ち破らなければ悲願を成し遂げることはできない。
写真=BBM

▲9月7日現在で巨人とは3ゲーム差。巨人に3連敗した現実を見て、「選手を信じて、いい人を使うという方針を最後まで貫きたい」と野村監督



ロサリオの快挙も、13残塁で敗戦


 課題は明白だった。広島は首位・巨人に1ゲーム差まで迫り、9月2日からの直接対決3連戦(長野、前橋、宇都宮)を迎えた。3戦合計の数字で振り返る。広島打線は3連勝中の勢いそのまま、コンスタントに快音を響かせた。計36安打、しかしながら、36残塁でわずか6得点だ。一方の巨人強力打線も潜在能力を120パーセント発揮できたとは言い難い。それでも計22安打で14得点を奪い、16残塁にとどめた。まさかの3連敗。決定力の差が明暗を分けた。

 野村謙二郎監督は3戦目に完封負けを喫した直後、「チャンスで点が入らないとこうなる」と冷静に振り返った。嫌な傾向は初戦からあった。長野オリンピックスタジアムの夜空に、100匹はいようかという無数のコウモリが飛び回る。何か“事件”が起こりそうな不気味な雰囲気。2戦ぶりにスタメン復帰した一番・ロサリオが人生初のサイクル安打を達成してしまうとは、さすがに誰も予想していなかっただろう。

 1回、先頭で巨人・杉内俊哉の高め直球をフルスイング。自身初の先頭打者弾をバックスクリーン左に運び、G党優勢の球場全体をどよめかせた。逆転されて2点ビハインドとなった2回二死二塁でも左翼フェンス直撃の適時三塁打。4点を追う6回一死一塁、今度は右翼フェンス直撃の二塁打でこの回2得点の反撃を呼び込んだ。8回は先頭で左腕・山口鉄也の外角スライダーに食らいついた。ボテボテの打球にも鬼の形相で一塁を駆け抜け、「とにかく一塁まで全力で走った。非常にうれしかったよ」と控えめに喜んだ。

 08年9月3日、小笠原道大(巨人)以来、プロ野球63人目(67度目)のサイクル安打。この快挙を勝利に結び付けられなかったから痛い。先発・野村祐輔は1点リードの1回裏、先頭からわずか5球で三番・坂本勇人の逆転左越え3ランまでを許した。5回途中8安打6失点で6敗目。微妙に狂った制球力が致命傷となった。3番手・今井啓介は2イニング目の7回に1失点し、なおも二死三塁で五番・村田修一を一ゴロに仕留めながら一塁・岩本貴裕からのトスをポロリ……。まさかの失策でダメ押し点を献上した。投手陣のミスがフォーカスされる中、打線は16安打で13残塁4得点。予兆は確かにあった。

重圧が奪った積極性


 2戦目は絶対的エース・前田健太が先発。もう負けられない試合。雨がシトシトと降り続く前橋、若鯉軍団に重圧がかかるのは必然だった。サイクル男・ロサリオが4回に特大の先制左越えソロを決めるが、マエケンが5回裏に一挙4失点。一死二、三塁で代打・井端弘和のボテボテのゴロが投手・前田、一塁・松山竜平の真ん中に転がり、二塁・菊池涼介が一塁ベースカバーに回る間、2人とも打球に追いつけず逆転2点打が右翼まで届いてしまう不運。さらにエースが一番・長野久義に左越え2ランを浴びた。

▲エースを立てた2戦目は必勝態勢で臨んだが、5回に逆転を許し、万事休した



 打線は好機に凡打を繰り返した。3点ビハインドを背負った6回からイニングごとに一死一、二塁、一死満塁、無死満塁、二死満塁と攻めたてながら、1点を返すのが精いっぱい。6回以降で9残塁では勝てない。

 野村監督は「山口、西村(健太朗)、マシソンをあれだけ苦しめているのにね。あと1本が出ない。当事者が結果を欲しがってしまうのかな。何も失うものはないのに」と嘆いた。この日も11安打で13残塁の2得点。単打で二塁走者がホームを狙えない場面が2度あるなど、持ち味の積極性を発揮できずに2連敗を喫した。

 指揮官は7回を一例に挙げた。山口を一死満塁と追い込み、三番・菊池が空振り三振。なおも二死満塁。四番・丸佳浩は3ボール1ストライクから外角ストライクを1球見逃し、最後は空振り三振に倒れた。「丸もフォアボール狙いのように見えた。こっちとしてはヒットを打ってほしいんだけどね」と指揮官。丸は「力を出せなかったのが悔しい。フォアボール狙いとかではなかったんですが……」と振り返った。打線の長所でもある「後ろにつなぐ」という意識が裏目に出てしまった面もある。

 前田は6回4失点で8敗目。「あそこ(5回)は粘りたかった」と悔しがった。絶対的エースでも負けた。チームの動揺を誘う試合の直後、指揮官は移動バスに乗り込む前の全体ミーティングで積極性の大切さを説いた。

「劣勢なのに、どこか、かしこまってしまっている。もうちょっと振っていかないといけない。打つ、打たないじゃなく、若いんだから思い切っていってほしい」

如実に表れた経験値の差


 宇都宮での3戦目、皮肉にも打線の流れを切ったのは、7戦ぶりに四番復帰させた巨人キラー・ロサリオだった。栃木出身・澤村拓一の前に3打席連続空振り三振。3回二死一、三塁、5回二死満塁でフォークにやられ、思わずバットをへし折った。1点を追う8回無死二塁では三番・丸が二直に終わり、偽装スタートを切っていた二塁走者・菊池が戻れず。俊足でスキを突く走塁には定評がある男までも、負の連鎖にはまった。

 9回二死一、二塁では捕手2人制の2人目となる倉義和に代打を送り、捕手入団で現在は外野手の中東直己にマスクをかぶらせる覚悟も決めたが、捨て身の作戦も実らなかった。

 先発・福井優也の6回3安打1失点は見るものの心を打った。済美高の恩師である上甲正典監督が2日前の2日に亡くなった。愛媛・松山市内で葬儀・告別式が営まれた日の先発マウンド。試合後は「そういうのもあったんで、今日は勝ちたかった」と話すと、あふれる涙をこらえきれなかった。

 一方で打線はこの日も9安打10残塁で無得点。野村監督は「1本が出ない。よしっというところで飛び出したり。ちょっと焦りがあるのかな」と振り返り、ロサリオは「チームが彼(澤村)にコテンパンにやられたわけではない。自分が打てなかっただけ」と責任を背負い込んだ。

▲第3戦は1点が取れない重苦しい展開。8回無死二塁も丸の二直に菊池が戻れず



 9月の首位攻防戦という状況が若鯉軍団に想像を絶する重圧をかけたのか。3夜連続の拙攻が響き、3連戦を終えた時点で自力Vが消滅。シーズンの行方を占う3連戦で、7カードぶりの負け越しどころか、今季初の同一カード3連敗を喫した。力負けしたわけではない。だから余計に悔しさが募る。要所をモノにできるか否か。巨人との経験値の違いが如実に表れた3連敗だった。

 経験の差は今季中に埋められない。ならば、若さを前面に押し出し、失敗を恐れない「らしい」戦いで挑むしかない。野村監督は「現実、負けた。ここまで来たら選手を信じて、いい人を使うという方針を最後まで貫きたい」と力を込めた。23年ぶりのV奪回へ。悪夢の3連敗をすぐさま糧に変えられれば、挑戦者の戦いはまだ終わらない。
HOT TOPICS

HOT TOPICS

球界の気になる動きを週刊ベースボール編集部がピックアップ。

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング