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球界インサイドレポート

前田健太 エースの白星が伸びない要因とは…

 

果たせなかった役割


▲9月3日の巨人戦では5回に逆転を許し、険しい表情でベンチへ戻った



 9月2日からの巨人との首位攻防戦。初戦を野村祐輔で落とし、迎えた第2戦のマウンドに前田健太は上がった。逆転優勝のためにも絶対に負けられない戦いだったが、チームの、首脳陣の、ファンの期待に応えることはできなかった。

 場所は投げ慣れた東京ドームではなく、群馬・前橋市の敷島公園野球場だった。慣れないマウンドだったが、しっかり順応することはできていた。初回は長野久義橋本到坂本勇人を3者凡退に抑え、素晴らしい立ち上がりを披露した。2回も阿部慎之助、ロペス、亀井善行を完璧に抑え込んだ。3回、4回とイニングが進むにつれ、140キロ台後半の直球、伝家の宝刀・スライダーのキレが冴え渡っていった。

 だが、1点リードで迎えた5回、降り始めた霧雨が徐々に強くなる中で、前田に変化が出始めた。先頭のロペスに左前へ運ばれると、続く村田修一に右中間へ二塁打を運ばれた。この試合初めて連打を許し、無死二、三塁のピンチを背負った。

 味方には大量得点を望めない展開。すると一打逆転のピンチの場面で、前田は一段階ギアを上げた。絶対に打球を前に飛ばさせない。気合が入った右腕は、片岡治大を鋭いスライダーで思惑どおりの空振り三振。そして代打の井端弘和には追い込んでから内角へ渾身のツーシームを投じた。

 完全に打ち取った打球だった。しかし不運にも一、二塁間を緩いゴロが抜けていった。2人の走者がホームへかえり、逆転を許した。打ち取ったはずが、まさかの逆転打。このショックを引きずったのか、前田は続く長野に被弾した。結局6回4失点で降板。

「あそこ(5回)は粘りたかったけど、(長野には)うまく打たれてしまった。抑えたかったですけど……。なかなかうまくいっていないなと思うことはありますが、頑張ります」

 大一番で自分の役割を果たせなかったエースは肩を落とし、球場を後にした。

進化が招くバランスの崩れ


 今季の前田を象徴した試合だった。この日の状態自体は決して悪くなかった。にもかかわらず、5回の1イニングだけ崩れた。「1試合の中で、どこかに落とし穴がある」。これが今年の前田の傾向だ。

 そして今季、前田に目立つのはマウンド上での態度だ。思いどおりに投げられないイラ立ちを隠せず、打たれては表情に出してしまう。山内泰幸投手コーチは「コントロールが思うようにできず、フラストレーションがたまっている」と話す。これほど何度も苦しむ前田の姿は珍しいが、不運な面もある。登板の日に限って雨が降ることが今季は多い。8月15日の巨人戦(マツダ広島)では、強い雨でマウンドがぬかるみ、今季最短の3回6失点で降板。前田が5回を持たずに降板したのは、昨年6月1日のソフトバンク戦(ヤフオクドーム)、右ワキ腹痛で1回持たずに降板して以来だった。今回はアクシデントはなく、悪天候が原因。気持ちが切れ、マウンド上では表情が険しかったが、相手も同じ条件。それだけに、野村謙二郎監督は前田の態度に「相手よりも自分をコントロールできていなかった」とクギを刺した。

 エースならばマウンドの状態の善し悪しで態度に表してはいけない。最悪の足場でも、最善の投球をする。そして気持ちで最少失点に食い止める。逆転を信じ、必死に投げる姿を見せなければならない立場にもかかわらず、今年の前田は成績以前に、エースと呼ぶにふさわしくない態度を何度も見せてしまった。

 だが昨年までは悪い足場でも何とかしのいでいた。なぜ今年は思いどおりにいかないのか。山内投手コーチは、体が進化したことでバランスを崩しているのではないかと推測する。

「今年はスピードが出ている。筋力や体力が強くなったことで上体を使い過ぎているかもしれない」

 確かに上体が強くなっていれば球速は出る可能性は高い。今季は150キロを超える球も珍しくないように、昨年のオフに体力面が強化された面はある。

 ただ上体が強過ぎると、体が開いたり、バランスを崩したりと、悪影響が出やすい。もちろん何とか修正しようと前田も試行錯誤している。8月22日の阪神戦(マツダ広島)では、投球フォームを昨年6月以来となるワインドアップに戻した。すぐに結果に表れ、今季初完封勝利を飾った。体を大きく使うことで、うまくバランスを取れたのかもしれない。ただ、まだ自分のモノにできたような感じではない。鋭いスライダーを自由自在にコントロールする自分のイメージとは、まだ大きなズレがあるのは間違いない。

一戦必勝の最終盤戦


 今季はここまで5年連続の2ケタ勝利となる10勝をマークしているが、8敗と負けも多い。安定感に欠ける投球が開幕から続いているのが要因ではあるが、それだけではない。野村監督は今季の方針として「巨人に勝ち越さないと優勝はない」と、「対巨人」を意識した戦いを掲げ、前田を巨人戦にぶつけるローテを組んできた。しかし、今季の前田の巨人戦登板成績は5試合で0勝3敗と計算どおりにはいっていない。

 巨人戦以外にも、阪神戦では3度の登板が、いずれも藤浪晋太郎との投げ合いとなった。エースだけに相手もエース級をぶつけてくるのは仕方がないが、今季は特に厳しい戦いが義務づけられているのも、白星が伸びない要因だろう。

 それでも優勝争いが佳境を迎えるここからは、ローテーションの柱として厳しい戦いで勝ちに導かなければならない。山内投手コーチは「夏ごろからマエケンにはずっと言っているが、マエケンが勝たないとチームは乗っていけない。とにかく白星が付いてくるような投球をしてもらいたい」と願っている。

 今後、前田を中心にローテは組まれていく。大瀬良大地福井優也、野村、新外国人のヒースとともにフル回転しなければならないが、残り試合が少ないだけに、前田の投げる試合は絶対に負けられない。「自分の投げる試合は勝たなければいけないと思っている」と、覚悟を語る。

 今季の目標はCS出場ではない。23年ぶりの優勝へ、大きなチャンスだ。これからは調子がいい悪いの言い訳はできない。ここまでエースの存在を示していない前田だが、巻き返すチャンスは残っている。悲願を達成するには、絶対エースの本領を発揮しなければならない。
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