週刊ベースボールONLINE

世界の野球を知ろう!

住田ワタリのメキシコ野球事情!パート1

 

大学卒業後にアメリカでスポーツ医学を学び、世界各地でトレーニングを指導してきた住田ワタリ氏。昨年12月にフィリピンで開催した野球教室に続き、今春にはメキシコプロ野球、Tigres de Quintana Roo(ティグレス)にコンディショニングインストラクターとして帯同した。現地の様子をリポートする。
文・写真=住田ワタリ(前中日ドラゴンズ・トレーニングコーチ)、構成=吉見淳司

 2月末日。到着ロビーから一歩足を踏み出すと、強烈な日差しが降り注ぎ、時差でまどろんでいた目が一気にさめた。聞こえてくるのはスペイン語。辺りを見渡すと背丈以上のサボテンが青々と点在している。アメリカ・アリゾナ州ツーソン、メキシコ国境に程近いこの地が今回の舞台だ。

 サッカーの強豪国として知られるメキシコだが、意外にも年間を通してプロ野球が行われていることはあまり知られていない。

練習を行う選手たち。ラテン系が多いが、人種はさまざま



 2月末のキャンプから始まる夏季リーグはリーガ・メヒカーナ・デ・ベースボール(以下LMB)と称され、4月に開幕。所属の16球団は南北2つに分かれ、年間113試合が組まれる。各ディビジョンの上位4球団がプレーオフに進み、9月にメキシコNo.1チームが決まる。

 10月には8球団で行われる冬季リーグ、リーガ・メキシカーナ・デ・パシフィコ(以下LMP)が1月末まで熱戦を繰り広げ、シーズンを問わず野球を楽しめる環境がメキシコにはあるのだ。

 今回は縁あって、カンクンに本拠地を置くティグレスの春季キャンプでコンディショニング担当に就任。初のメキシコ野球を体験することになった。

 LMBはメジャー・リーグ(以下MLB)のマイナー組織と認識され、MLBのすぐ下の3Aに分類されている。今シーズンから選手登録が28名から30名に変更。メキシコ人選手登録の23名には変わりないが、外国人枠が6になり、新たにメキシコ人の血を引く外国籍枠がひとつ設けられた。外国籍の監督やスタッフも多数在籍しているメキシコ球界。ティグレスを見るとアメリカ人監督とコーチ、ドミニカ共和国、キューバ、プエルトリコ、日本と「人種のるつぼ」。公用語のスペイン語にも各国独自の言い回しがあり、ラテン選手同士が首を傾げているのも面白い。

 シーズンオフにはティグレスの監督人事がメディアを賑わせた。2002年にブリュワーズの監督代行を務めたジェリー・ロイスターを、メキシコ球界初となるMLB監督経験者として迎え入れたのだ。

練習を見守るジェリー・ロイスター監督[手前]。韓国などでも指揮官経験があり、経験豊富だ



 彼の選手への問いかけやスタッフミーティングの発言から、「パイオニア」としての生き方を垣間見た。一言で表すと、「融合」。韓国プロ野球初の外国人監督としてロッテジャイアンツを3年率いたのも頷ける(08〜10年)。「今日もいい天気だ。Vamonos(さあ、行こうぜ!)」と選手を送り出すジェリーの声が響き渡る。

 ある晩のコーチミーティングの席で球団オーナーが監督に嘆願した。

「メキシコ人は内角を攻めない。併殺崩れを狙うスライディングもしない。この部分をしっかり口頭で言い続けてくれないか?」

 年間を通じてプロ野球があるメキシコ、選手も顔見知りや幼馴染が多い。その「甘さ」がオーナーの野球哲学を邪魔するようだ。「われわれが言うより、外国人が言う方が選手は聞く」。球団オーナーが言うぐらいだ、「プレーの甘さ」はメキシコ球界では暗黙化されているのだろう。「ノ・エスタ・プレオクパード(心配無用)」。ジェリーは笑顔で、親指をオーナーに向かって力強く突き出した。

PROFILE
すみだ・わたり●帝京大ではラグビー部で活躍。卒業後、アメリカ・アーカンソー州立大でスポーツ医学を学び、マイナー・リーグやドミニカ共和国での指導歴をもつ。08年〜14年まで中日ドラゴンズのトレーニングコーチを務めた
HOT TOPICS

HOT TOPICS

球界の気になる動きを週刊ベースボール編集部がピックアップ。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング