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長谷川晶一 密着ドキュメント

第七回 奥川の投球は「うらやましい」。石川雅規は20年目でも必死に答えを探し続ける/41歳左腕の2021年【月イチ連載】

 

今年でプロ20年目を迎えたヤクルト石川雅規。41歳となったが、常に進化を追い求める姿勢は変わらない。昨年まで積み上げた白星は173。200勝も大きなモチベーションだ。歩みを止めない“小さな大エース”の2021年。ヤクルトを愛するノンフィクションライターの長谷川晶一氏が背番号19に密着する。

「打線の援護がないのは、僕の何かが足りないから」


どのような状況でも石川がマウンドで懸命に腕を振るのは変わらない


 6月18日に今季3勝目、プロ通算176勝目を挙げて以来、なかなか勝てない日が続いていた。好投を続けるものの、打線の援護に恵まれず白星に手は届かなかった。この間も石川雅規は黙々と投げ続け、6月25日には3.38だった防御率は登板を重ねるたびに、2.84(7月4日)、2.63(8月18日)、2.53(8月25日)、2.40(9月2日)、2.30(9月13日)とどんどん良化した。それでも、この間は白星に見放され続けた。石川は言う。

「よく、“石川が投げるときは打線の援護が少ない”って言ってくれる人もいるけど、それって実は、たぶん僕の何かが足りないんですよ。だって10対9でも勝つ人は勝つんですよ。9点取られても、勝利投手になるピッチャーもいるんですから。もしかしたら、野手が攻撃しやすいようなリズムを僕が作れていないんじゃないのか? 若い野手たちが“石川さんが投げているから……”って力が入っちゃうのかな? そんなんなっちゃったら、ただの老害ですよね(苦笑)」

 そして石川は、その才能を開花させつつあるプロ2年目、20歳右腕の名前を挙げた。

「やっぱり、奥川(恭伸)のピッチングを見ていてもよくわかりますよね。あれだけポンポンとストライク先行で追い込んだら、バッターも苦しくなりますよ。フォアボールも出さないし。奥川が投げるとき、打線もよく打つじゃないですか。それはやっぱり、彼の醸し出す立ち居振る舞いだったり、ピッチング内容だったり、そういうものがいいリズムを生んでいるんだと思うんです。いいピッチャーというのは年齢に関係ないですから。いつも、“うらやましいな”と思いながら見ていますね(笑)」

 これまで何度も聞いてきたように、石川の胸の内には「たとえ自分が打たれたとしても、チームが勝てばいい」という思いが根強くある。もちろん、打たれれば悔しい。それでも、たとえ自分に勝ち星がつかなかったとしても、チームが勝利すればその悔しさは半減する。だからこそ、自分が打たれてチームが敗れたときにはその悔しさは倍増するのだ。

「6回1失点に抑えて“ナイスピッチングだったよ”って言われても、チームは負けてるわけですから……。僕が0点に抑えていたら負けてないわけです。それはやっぱり悔しくて仕方ないですよ」

9月13日、対中日ドラゴンズ戦を振り返って


9月13日の中日戦、中村(右)の巧みなリードもあり、3回一死満塁のピンチを切り抜けた


 石川の言う「6回1失点」というのは9月13日、バンテリンドームでの対中日ドラゴンズ戦のことだった。この試合、石川の調子は決してよくなかった。ブルペンでは絶好調だったが、試合が始まるとまったく思うようなピッチングができなかった。一番・京田陽太のスリーベースヒットを足掛かりに、初回に簡単に1点を失ってしまった。

「ブルペンとゲームが違うことはよくあるんですけど、マウンドの傾斜の問題なのか、タイミングの問題なのか、腕が前に向きやすくなって、横の時間が作れなかった。身体の開きが早かったんです。それでも試行錯誤しながら投げていました」

 この日の石川のピッチングで注目すべきポイントは、再び一番・京田から始まる3回裏ドラゴンズの攻撃だった。京田がヒットを放ち、渡辺勝が送りバントを決めて一死二塁。三番・大島洋平にも内野安打を献上してあっという間に一死一、三塁の場面となった。ここで迎えるのは、初回にヒットを放ったビシエド堂上直倫と続くドラゴンズのクリーンアップだ。

 結論から言おう。ここで石川はビシエドにフォアボールを与えて一死満塁とする。しかし、五番・堂上、六番・高橋周平を連続三振に斬ってとり、無失点でこのピンチを乗り越えた。ベテランならではの老獪なピッチングが垣間見えた瞬間だった。

「ビシエドは敬遠したわけではありません。勝負にいったんだけどボール先行になったので……。あの場面、ホームランがいちばんイヤなので、“何とかゴロを打たせよう。クサいところに投げればゴロになるかな?”と思っていたけど見逃された。そこですぐに“次の手を考えよう”と堂上、高橋選手との勝負を選びました。不安はなかったです。むしろ、“これでゲッツーを取りやすくなったぞ”という割り切りはできていました」

 ここで石川の口調に熱が帯びる。「あの試合のポイント」と語る場面が訪れたからだ。

「あの試合のいちばんのポイントは続く堂上選手の初球です。あの場面で中村(悠平)は緩いシンカーを要求しました。ムーチョ(中村)がどんな考えでサインを出したのかはわからないけど、おそらく堂上選手も、僕の中にもない球種でした。僕の頭の中では“インコースにストレートを投げ込むのかな?”という思いと、“甘くいって打たれたらイヤだな”という両方の思いがありました。でも、サインは緩いシンカーでした……」

 自分の予想とは違うサインが出た瞬間――。マウンド上のピッチャーはどんな心境になるのだろうか? 石川の口調が明るくなる。

「ムーチョからのサインを見て、“おっ、いいじゃん!”って思いましたね。正直、初球から緩いボールを投げるのは怖いんです。でも、ムーチョに対して、“よし、任せろ。頑張ってミットに投げますよ!”という心境でした。そのシンカーをまんまと見逃してストライクがコールされた瞬間、“よし、行ける!”って思ったんです」

 2球目は速いシンカーがワンバウンドとなった。3球目、インコースのストレートは見逃しのストライク。そして4球目もシンカーがワンバウンド。カウントはツーボール・ツーストライクとなった。

「2球目、4球目はともにシンカーを投げてワンバウンドになりました。2球目のシンカーはゲッツー狙いでゴロを打たせるために低めに投げたものがワンバウンドしたものです。で、ツーストライク後に投げた4球目のシンカーは三振狙いで空振りを奪うための一球でした。内心では“振れ!”と思ったけど、堂上選手は振ってくれませんでしたね(笑)」

 カウントはツー・ツーだ。もう一球遊ぶのか、ここで一気に勝負に出るのか? 中村の選択はインコースのストレートだった。

「たぶん、堂上選手は僕の決め球であるアウトコースのシンカーをマークしていたと思いますね。でも、サインはインコースのストレート。きわどいボールでした。3球目のストレートよりは外れていたと思うけど、結果はストライクでラッキーでしたね」

 続く高橋周平もワンバウンドのシンカーで空振り三振に斬ってとって、石川は一死満塁のピンチを連続三振で切り抜けることに成功する。その後、石川は完全に本来の調子を取り戻した。6回91球を投げて1失点。先発投手としては十分、及第点を与えられる結果だ。しかし、チームは敗れた。若き左腕、小笠原慎之介の前に打線は沈黙。1対0の惜敗だった。

そして迎える、石川雅規20年目の秋――


9月26日の中日戦は打線の大量援護を受け、4勝目をマークした(左から村上宗隆、石川、山田哲人、つば九郎)


 冒頭に掲げたように「打線の援護がないのは、僕の何かが足りないから」と石川は言った。だからこそ、問う。「あなたには何が足りないのですか?」、と。しばらくの間、沈黙が続く。そして石川は静かに口を開いた。

「……うーん、なかなか難しいですね」

 当然の答えだった。それがわかっていれば、誰も苦労はしない。百戦錬磨の20年目のベテランでさえ、必死にその答えを模索し続けているのだ。

「何が自分に足りないのかはわからないけど、毎試合、毎試合、しっかりと準備をしてゲームに臨んでいくしかないのかな、そう思っていますけどね。心が折れそうだったり、フラフラすることもあるけど、週に一度のチャンスをもらっている以上、そこに向けてしっかり準備するだけですから……」

 人事を尽くして天命を待つ――。石川にできることはそれしかない。結果が出なくても、腐らずに前を向くだけだ。9月20日の対広島東洋カープ戦(神宮)でも6回2失点でまとめたものの、またしても打線の援護はなかった。しかし、26日の対中日ドラゴンズ戦(神宮)では初回から打線が爆発。結果的には16対0で快勝。石川は6回無失点で、今季4勝目をマークした。

 ヤクルトナインはチーム一丸となってペナント奪取に進んでいる。残り試合は30試合もない。優勝を知るベテランの存在感が発揮される時期は必ずやってくる。石川雅規の20年目の秋は、どんな秋となるのだろうか?

(第八回に続く)

取材・文=長谷川晶一 写真=BBM

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