週刊ベースボールONLINE

オーロラビジョン

中田廉投手・プライドを胸に駆け抜けた1年

 



 23年ぶりのV奪回が遠のいた瞬間、マウンドにいたのは中田廉だった。9月17日の巨人戦(マツダ広島)は打ち合いとなり、1点リードのまま8回表に突入。ここで中田が伏兵大田に逆転2ランを献上し、カープは力尽きた。首位巨人とのゲーム差が6まで広がり、この時点で逆転優勝は絶望的となった。ただ、誰が中田を責めることができただろうか。

 シーズン終盤は打ち込まれる場面が目立ったが、「疲労はない。疲れが原因じゃないです。自分の力がないだけです」と繰り返した。決して言い訳をしない姿から、不動のセットアッパーとしてのプライドがにじみ出ていた。今季は中継ぎ陣でただ1人1シーズンを戦い抜き、チーム最多の66試合登板で9勝8敗、これもチーム最多の18ホールド。昨季までプロ5年間で計57試合登板だった男が、ブレークした1年だった。

 開幕からチームの快進撃を力強く支えた。僅差の緊迫した場面で信頼を勝ち取り、5月6日ヤクルト戦(神宮)で失点するまで17イニング連続無失点。「相手はまだ僕のことを知らない。今はとにかくストライク先行で行こうと思っている」と話していたとおり、簡単に追い込む小気味いい投球で打者を翻ろうした。6月中旬まで防御率0点台をキープ。ブルペンに決して欠かせない主力となった。

 夏場以降は制球が微妙に狂い、本来の球威を失い、痛打され始める。それでも気力を振り絞り、マウンドに立ち続ける姿は見るものの心を打った。結局、防御率は3.89まで落ちたが、1度も二軍降格することなくシーズンを駆け抜けた。14年、球界にカープ旋風が吹き荒れた。その中心に、中田がいたことは間違いない。
オーロラビジョン

オーロラビジョン

週刊ベースボール各球団担当による、選手にまつわる読み物。

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング