重たい空気を一変させたのはベテランの一振りだった。6月7日の
オリックス戦(京セラドーム)。延長12回無死満塁で、途中出場の
工藤隆人が初打点となる2点適時打を放ってチームを勝利に導いた。
「思い切り振ることを考えました。若い投手が頑張っていたし、自分で決めたかった。最高です」
125キロスライダーをコンパクトに振り抜いた。気合のこもった打球は右前へ抜けた。
この日はドラフト1位ルーキー・小笠原が粘投し、勝ち投手の権利を持って降板。だが、9回に失策絡みで田島が今季初失点。負けていれば重苦しいムードが漂った。しかし背番号62がすべてを帳消しにした。
「こういう試合で粘って勝てたのは良いこと」
思わず笑みをこぼした。
一軍では荒木に次ぐ35歳。ベンチでは誰よりも声を張り上げる。二軍暮らしだった今春のキャンプでもその姿勢は変わらない。
「声にはスランプはないからね。とにかく元気を出すというのは、ずっとやっていること」
チームメートを励ましたり、鼓舞したり、とにかくベンチを盛り上げている。
谷繁監督は「日ごろから練習に対して集中してやっている。こういうときのために練習したものが出たという打席だった」と称賛した。決して出番が多いわけではない。それでもいつか来るチャンスに備え、愚直にやってきた成果が土壇場で出た。スーパーサブとしてチームを支えていく。