走者一塁で、投手がセットポジションから投球しようとしたそのとき、捕手が急にタイムを要求し、立ち上がって投手の方に歩き出したので、投手は投球動作を中断しました。球審はためらわず「ボーク」を宣告しましたが、守備側はタイムを要求したのだから、ボークはあり得ないと主張しています。

　球審の宣告どおりにボークです。規則8.05のボークの規定の(a)にある、「投手板に触れている投手が、投球に関連する動作を起こしながら、投球を中止した場合」に該当します。

　守備側は大きな勘違いをしています。タイムを要求すれば、即座に試合が中断されるというものではありません。タイムを規定している5.10(d)の[注]にはこうあります。

「監督は、プレイが行われていないときに、“タイム”を要求しなければならない。投手が投球動作に入ったときとか、走者が走っている場合などのように、プレイが始まろうとしているとき、またはプレイが行われているときには“タイム”を要求してはならない。もし、このような要求があっても、審判員は“タイム”を宣告してはならない。なお“タイム”が発効するのは“タイム”が要求されたときではなく、審判員が“タイム”を宣告した瞬間からである」

　この件に関して、最近は監督も選手も承知しているので、間違いはありませんが、65年10月5日の大洋対広島ダブルヘッダーの第1試合(川崎)の7回表、大洋の攻撃のときに[問]に該当する出来事がありました。二死二、三塁で広島の羽里功投手が投球動作に入ったとき、田中尊捕手がタイムを要求して、勝手に投手の方へ歩き始めたのです。

　球審はタイムを認めずボークを宣告したので、三塁走者は得点しました。この判定に広島は不服を唱え、提訴を条件に試合は再開されましたが、もちろん却下されました。