投球を逸らした捕手は、一塁側ベンチ前に転がったボールを追いかけていましたが、投球がベンチ内に入ったときには、走者には一個の進塁しか許されないという規則を思い出し、ボールをわざと蹴ってベンチに入れてしまいました。一塁にいた走者はその瞬間、すでに二塁ベースを回り、三塁との中間まで来ていました。この場合もやはり、上記の規則が適用され、二塁に戻らなくてはならないでしょうか。 確かに野球規則7.05(h)には
「打者に対する投手の投球がベンチに入った場合には一個の進塁が与えられる」とあります。ボールがベンチに入らなければ、走者は好きなだけ進むことができるのですから、ボールを蹴っ飛ばしてベンチに入れてしまったほうがトクのように思われます。
しかし、野球規則ではそんなインチキを許しません。7.05(h)には、ちゃんと次のような[付記]があります。
「投手の投球が捕手を通過した後(捕手が触れたかどうかを問わない)さらに捕手またはその他の野手に触れて、ベンチまたはスタンドなど、ボールデッドになると規定された個所に入った場合、(中略)投手の投球当時の各走者の位置を基準として、各走者に2個の塁を与える」 つまり、問にあるボールを蹴っ飛ばすような行為が故意かどうかにかかわらず、捕手を通過した後、さらにボールに触れてベンチに入った場合は2つの進塁が許されます。ということは、問の一塁走者は三塁まで進めるのです。
しかし、長いことこれは日本独自の規則で、アメリカの規則書には載っていませんでした。そこで日本では1957年から独自の[注]として採用していましたが、75年になってアメリカの規則委員会が採用したのです。そこで日本の規則委員会も[注]を[付記]としてそのまま残すようにしました。アメリカより一歩先をいっていた日本の規則でした。